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野里征彦「K捕虜収容所」(「民主文学」17年1月号)

 今月は新年号ということでベテランの作品を並べたので、さすがにいずれも読みごたえがある。
「こつなぎ物語」の野里征彦である。いまネット検索して驚いた。まあ世間的に言えば高齢者ということになるのだろうが、ぼくとふたつしか違わない。それで明治の話を書き、今回は1945年の話、著者1歳の時のことである。すべてを取材で書いている。それでいて見てきたような臨場感だ。
 もとはミステリー作家だというのも驚いた。ミステリーで40代でデビューしている。
 この人の作品を最初に読んだのは、3.11のときのインコがどうしたとかいう短い作品で、あれがつまらなかったので、その程度の作家だろうと思っていたら、「こつなぎ物語」で驚かされてしまった。ぼくはこれを一年間の連載が終わった時点でまとめ読みした。小繋事件は学生時代から耳にはしていたし、岩波新書があるのも知っていたが、内容は全く知らなかった。
 作品が面白かったので興を惹かれて、戒能通孝の岩波新書を探したがすでに絶版だった。ところが便利な世の中でアマゾンですぐ手に入った。それでその新書の書評を「まがね」に書いた。その直後に岩波がこの本を再刊した。ぼくの書評を読んだ人が興味をもって、この再刊した新書を購入し、読んで感銘したという感想をくれた。
 世の中というものはちょっとしたことが次々とつながっていくと思った。
 小繋事件は入会権の問題だが、ぼくはそこから海の入会権というものを考え、尖閣海域の漁業権をその考えで漁師の立場に立つならば、国家権力による先占権だとか実効支配だとかは全くの絵空事だと思った。

 今回は、沖縄に駐留した日本兵たちが敗戦で米軍の捕虜収容所に入れられる、そのK収容所での話である。
 ちょっとスティーヴ・マックィーンの「大脱走」の収容所風景を連想するが、あれは娯楽映画だということもあり、こちらはまったく違う。敗戦によって本来の自由な人間関係を取り戻した兵たちが、戦争中の上官による暴力に仕返しをする。元上官を呼びつけてみんなでリンチを加える。それだけでは終わらない。朝鮮人兵士たちは自分たちを苦しめた日本人兵士たちに仕返しをする。沖縄住民は日本軍の一地域の現場指揮官が、住民をスパイあつかいして罪のない女子供まで殺したと言って、その指揮官を制裁する。彼はたぶん命の危険を感じたのだろう、収容所を脱走しようとして米兵に撃たれて死ぬ。
 こういうさなかに放り込まれた元中学教師の目を通して、だが、主観を排した客観的な描写で、緊迫した状況を極力抑えた筆致で綴っていく。この筆致は最後までほとんど変わることなく、戦争というものの非人間性を読者の目にさらしていく。
 一種の群像劇で、こういう作品では登場人物の描き分けが困難なのだ。作者が描き分けたつもりでも読者はなかなか区別できない。そこで作者はうまい方法を使った。人物をニックネームで表記する。それも日本兵たちの出身地で呼ぶのだ。東北弁の男は岩手の出身だから「岩手」、関西弁の男は「河内」、京なまりは「公家」といった具合である。方言を描き分けることで会話の主をわからせる。もっとも、沖縄弁は作者の手に余ったようにも感じたが。
 これは「マークスの山」で高村薫が使った手法で、あの小説は推理はたいしたことなかったが、大勢の警察官を一人一人描き分けた警察小説としての面白さがあった。この大量の人物たちを読者の頭に刻み付けるために作者の使ったのがニックネームだ。
 野里征彦はミステリー作家だからもちろん「マークスの山」は読んでいる。そこからヒントを得たかもしれない。
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