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吉開那津子「ある作家の肖像」(「民主文学」17年1月号)

 40年前にさかのぼって一人の無名作家との出会いを書いている。出会いとはいっても、その本人と直接会うことを筆者は避け続けた。(例によって日本的私小説の約束事で、筆者の名前は吉開ではなく玉井だということになっているが、吉開その人と思って読んでかまわないだろう)。懸賞小説に入選して華々しくデビューした若い作家に、どうやら相手は会いたがっているようなのだが、内気な性格の筆者は避け続ける。彼女が多少付き合ったのは、もっぱらその妻のほうである。数年後、無名作家は死ぬ。それから30年経って、その男の娘が父親の短編を集めて本にした。筆者は初めて彼の作品を読む。そして感動し、後悔する。なぜ最初にこの作品を読まなかったのだろう。なぜもっとこの作家と会って話し合わなかったのだろう。
 最後の3ページはその無名作家の一作品の紹介である。紹介といっても単なる紹介ではなく、それ自身が短編小説のようになっている。
 <引用(作品内容は翻案) 永石雪男著「父の短編集」(私家版)>
 となっているから、実在したペンネーム永石雪男の小説の文章を作者が書き直したのだろう。熟練した作家の手による翻案だからもちろん感動的だが、もとの作品の内容もすぐれていたのだろうと感じさせる。
 炭鉱の話である。
 主人公は5時間で何メートル掘り進むかというコンクールで優勝するが、周囲の炭鉱夫たちは「おだてに乗せられるやつがいるから俺たちのノルマを増やされる」と苦い思いでいる。若い主人公は会社の計略がわかっていない。会社側から英雄扱いされて、さらに頑張り、早く掘る方法を研究して編み出しもする。だがやがて機械が導入されると人員は過剰になり、主人公も解雇されるが、そのとき労働者たちが団結して闘いに立ち上がる、という話だ。
 よくある話かもしれないが、それを外から書くのではなく、そのただなかにいる労働者の働く姿の具体的な描写のなかにとらえているらしいことが翻案を通しても伝わってくる。そこに若い労働者男女の恋愛をからませて生命の息吹を感じさせていることも適切な小説作法だろう。
 この無名作家は、小学校には2年間しか行けずに炭鉱で働き、やがて肺を患って病気と闘い続けて61歳で亡くなった。その文章の実際の出来はわからない。だが、少なくとも、社会の仕組みとそこに生きる人間の姿を、的確にとらえて物語世界を構築するすぐれた能力を持っていたのだろう。
 人々の目に触れないところにも、じつはさまざまな物語があるのだ。

 余談だが、この無名作家の弟子を自任する長崎出身、たぶん共産党系の作家が誰なのかがちょっと気になる。中里喜昭ではあるまいか。
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