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仙洞田一彦「忘れ火(連載第1回)」(「民主文学」17年1月号)

 この人の作品にも当たり外れがないわけではないが、読者を退屈させることは決してない。うまいのである。それでも今回、連載の第一回ということで少し硬くなったのか、何ヶ所か文章がおかしい。とりわけ冒頭が良くない。冒頭は一番硬くなりがちなところだ。
 特によくないのは三つ目のセンテンス。
 <正社員はもちろん、派遣社員の机の上に置いてあるパソコンもない>
 これは明らかに書き損じであろう。まったく意味不明である。ここで言いたいのは、<正社員、派遣社員を問わず全員の机上にあるパソコンが、三神のところにだけない>ということなのだろう。
 しかし悪いのはここだけではない。はじめから悪いのだ。
 <前にある灰色のスチールの事務机の上には何もない>
 詩のフレーズならこんなのもありだろうが、小説の冒頭描写の短い文章に<の>が三つ、<に>が二つもあると、説明過剰で、かえってイメージが浮かばない。
 おまけに、ここで机の上を語った直後に<引き出しの中も空である>ときて、そのすぐあと机の上に舞い戻り、<机の上にパソコンもない、電話もない>とくる。読者の目をうろうろさせすぎている。
 ぼくなら次のように書く。
 <机の上には何もない。パソコンもない。電話もない。けさ、三神実が出勤してみると、彼の机の上からだけなくなっていた。埃すらない。念のために引き出しを開けてみたが、それが空であることはもちろん分かっていた>
 机が灰色であろうがスチールであろうが、必要ならあとで書けばよいことで、冒頭に必要なことではないだろう。ここでは机上が空であることが大事なことであって、色や材質は問題じゃない。事務所のすべての机の上に一台ずつパソコンがあるのは、いまでは常識だからそれを説明する必要もない。正規か派遣かということもここで書かねばならないことではない。そして、引き出しの中のことを書くのは机の上のことをすべて書き終わってからである。むしろ、<それが空であることはもちろん分かって>いて当然だからここで書く。理由は書かなくてよい。続きを読んでいけば分かるのだから。ここでは読者に<なぜもちろんなのだろう>と思わせておく。

 という欠点が冒頭にあるのだが、あとの文章は少しおかしいところがあるとしても、概ね緊張感をもって読者を引っ張っていく。文章もうまいし、物語の作り方もうまい、人物造形もうまいのだ。続きを期待できる書き出しである。
 ただ、連載の第一回としてはかなり短いので、たとえば、会社の全体像もつかみにくいというようなこともあるが、今後、だんだん書き込まれていくのだろう。
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