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又吉直樹「火花」

 しばらく芥川賞は買うだけ買って読めずに来たが、今回久しぶりに読んだ。面白くないという感想も耳にはしていたが、どうして最高に面白い。ぼくはテレビも観ず、ラジオも聴かないので、落語も万歳も知らないのだが、書かれている内容は芸の世界に普遍的なものだ。宮本武蔵の「五輪の書」を読んだときも感じたことだが、今回もそういう感想を持った。
 ボケとツッコミの、万歳独特の誇張ぶりはそれ特有のものだとしても、平凡な展開を嫌い、すべてにアクセントを付けようとするのはどのジャンルにも共通している。
 二人の登場人物の間で交わされる万歳論の果てしない堂々巡りと、その求め迷う姿が、すべて小説を書く上でも共通のこととして、腑に落ちることばかりである。
 そういった観念的な対話が宙に浮いてしまわないのは、これを職業として食べていけるかどうかという瀬戸際を生きている人間たちの必死の対話だからでもあり、それが東京という街を背景とした人々の動きの中で語られるからでもあり、また対話の間にはさまれるちょっとした情景描写がさりげなく醸し出す現実感のためでもあるだろう。
 つくづく感じたのは、よく書きこんでいるなということだ。ぼくらは先を急ぎ過ぎ、書き込みを端折りすぎる。「火花」は、ひとつひとつの場を、それが肉感を持ってくるところまで、じっくりと書きこんでいる。
 万歳特有の世界は、そこで苦闘した人間でなければ書けないものだ。ただこの作者はその特有さに安住するのでなく、それを普遍的な世界に引き出してみせた。万歳をめぐって描き出されたものは、すべて何ごとかを為そうとするときに通じるものでもあり、そして結局作者が描出したのは、生きるということそれ自体なのである。
 非常に落ち着いた玄人らしい文体で終始しながら、最後に激情に向かってたたみかけていった部分はとても効果的だった。師匠の描き方もすばらしかった。読ませた。
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