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竹内七奈「夢幻泡影」(民主文学10月号)

 第11回(2014年)民主文学新人賞受賞者。タイトルは、ムゲンホウヨウと読む。儚いものを表現している。ほんとうに儚い話なのかどうか読んでのお楽しみ。
 今までに、この人の二作品の感想を当ブログ上で書いた。技術的な、あるいは社会批評上での未熟さを指摘しながら、でも「奇妙だが、魅力的な作品」と書いた。
 じつはあまり期待していなかった。そこからさらに伸びる余地がある人のようにも思えなかったのだ。
 今回の書き出しは、前二作とちがって、ケイタイ小説かライトノベルのように始まる。ああ、こうなっちゃったのか、とかなりがっかりした。ケイタイ小説もライトノベルもぼくらの書くものよりずっとファンが多く、売れているが、ぼくらにとってはおよそ読む気のしない代物だからだ。
 でも軽く、のりがいいので、つい読まされる。もちろん、ただ軽いだけの、フィクション世界のらちもない心情描写がずっと続いていけば、うんざりして読む気も失せる。
 でも、この人は違う。前二作でもそうだったが、だんだん現実世界が入り込んでくるのだ。
 31才のホストと、その常連客となった35才のさえない女性の物語である。ホストとは男の売春業だと思えばいい。最初は雇われて店で働くが、一定数の常連客が着くとケイタイ専門のホストになる。この場合にも元締めがいて、客は元締めに金を払う。指名を受けてデイトし、あとは客の要望に従う。デイト先では一応ホストが支払い、これを経費として元締めに要求し、元締めは客の払った金からピンハネしてホストに支払う。
 主人公はけっこう稼いでいる。マンションを持っている。もちろんいつまでもやれる職業ではないから、老後の金も稼いでおかねばならないだろうが。
 こういう設定をすれば、ポルノ小説なら性的描写が延々と続く。ライトノベルだと、男女のらちもない心情世界の描写になっていく。もう少し高級になると、その心情世界に哲学が入り込み、観念的、形而上的世界の話になる。
 ところが竹内さんは違うのだ。この世界を成り立たせている現実世界が、徐々にその姿を見せてくる。たとえばこんなふうだ。
 イケメンの主人公は、じつは整形手術の結果であり、20才のときに手痛い失恋を味わい、徹底的にイメチェンしたのだ。
 同僚の一人は、不細工な男だが、アメフトで鍛えた肉体で女たちを魅了している。もう一人はこの仕事に向かない男で、結局自殺する。
 4歳年上のさえない女性客は、読者にとってもさえない女性なのだが、男は次第に彼女に惹かれていく。それにつれて読者にとっても気になる女になっていく。
 ライトノベルが絶対に書かないのは金の話であり、竹内さんが書くのは金の話だ。女はホストを買っているが、そんなに金があるわけじゃない。ほんとにしみったれた話が展開する。そしてホストの側は、彼女と真剣な関係になろうとしたら、この職業が邪魔をする。だが、いまさら自分が就くことのできるどんな仕事があるのだろう。
「もしあなたと寝たら、そのあとすぐ私は自殺する」と聞かされながら寝てしまった翌朝、女は姿を消していた。ここから、自殺してしまわないうちに女を探し出そうとして男が必死になって走りまわる終盤は、なかなか読ませる。
 物語の背後に思うようにならない、しみったれた現実世界が確固とした重量感でいすわっている。だからこの作品は何かであり得ている。
 もうひとつ、この作家は見慣れぬ漢字を使うのが好きである。前二作ではそれがどうもその場にそぐわぬちぐはぐな使い方をされていたが、今回作では見事にはまっているように感じられた。ここまで徹底して古臭い漢字表現を最新の現代風俗の中で使われると、それもなるほど一つの文学世界だと感じられてくる。
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