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佐田暢子「雪の一ト日」(民主文学10月号)

 団塊以上の世代が、数十年前の青年や、現代の高齢者を(つまりは自分たち自身を)書くだけでは飽き足らなくなって、現代の若者を書き始めている。
 それは必要なことだ。だが、困難なことだ。容易に成功しない。どこか違和感が残ってしまう。
 どこに問題があるのだろう。
 ひさしぶりに「民主文学」に立ち返った。半年読めていないが、とりあえず10月号からかかる。じきに11月号の出るころだが。
 今月号は歴代の新人賞受賞者の新作を並べている。この人は第1回(1995年)である。団塊以上ではないかもしれないが、そこそこのお歳だろう。
 主人公は33歳。パラサイト・シングルもどき。両親と同居して、一応働いてはいるが、長続きせずに転職を繰り返している。
「これくらいの雪で休むつもり?」
「休むなんて言ってねえだろうが」
「今度辞めたら、うちには置かないって言ったよね。覚えてる?」
 といった具合で、母息子ともに言葉は乱暴だが、コミュニケーションは維持している。
 息子の視点で始まる。ところがじきに両親の会話になる。ここですでに違和感がある。息子の眼で両親を見ているはずなのに、両親の眼で息子を見ているような雰囲気になってしまうのだ。
 そのあと半年さかのぼって、現在の仕事を見つけた職安でのやりとりがあり、何とか主人公に視点がもどったなと思っていると、すぐ職場の描写になる。デイサービスの職場である。この場面はサービス享受者である4人の老人が主人公で、もともとの主人公はどこかに消えてしまう。
 終業後、雪のためにいろいろハプニングがあったせいではあるのだが、主人公は同僚の若い女性の一人住まいのアパートに上がりこむことになる。もともとお互い憎からぬ気持ちがあったので、結局最後までいってしまう。このへんはエンタメふうだが、なかなか読ませる。
 そして、いままで職業に全く興味を持てず無気力であった主人公がこれをきっかけに、かなり前向きの気分になる。
 それぞれの場面はそれぞれに興味深いのだ。どこが気になるかというと、短編としての統一がとれていない。ばらばらのことをばらばらに言っただけという感じ。
 だからいろんなことが気になってくる。父親は60過ぎたが定年がないので小さな工務店で働き続けている。ということは職人だろうか。それにしては物わかりのよさそうな父親だ。
 母親は自宅で洋品店の寸法直しの内職をしている。この母親が介護保険について終幕になって熱弁をふるう。息子が施設で働くことになったときに調べたのだそうだ。そう書かれているだけでは唐突感を否めない。
 そして、主人公が前向きになるきっかけである。
 それがふたつある。
 ひとつはとにもかくにも恋人らしきものができたこと。確かにこれは若い男にとってはとても重要なことだ。一人の女性の存在が男の人生を大きく左右するということは不思議なことじゃない。
 だが、よく分からないのは、なぜ33歳になった今なのだろう。いままではどうだったのだろう。よく「モテ」「非モテ」ということが言われる。これは必ずしも男女関係に限らず、コミュニケーション能力の有無、人間関係をスムーズに結べるか、それとも苦手かということまで含めて言っているような感じなのだが、現代の職業がモノ相手からヒト相手に代わってきているなかで、コミュニケーション能力が以前よりもずっと人生を左右するようになってきているという事情がある。
 ここで扱われている主人公にはそういう問題があるわけで、それがたまたまあっさりと解決してしまうと、「え? ただそれだけ?」という感じがしてしまう。
 主人公を前向きに変えたもうひとつは、主人公がその若い女性の感化を受けて、介護という仕事を見直すところにある。
「派遣でいろんな工場へ行ったけど、どこも一つの作業ばっかりやらされて、それがどういうものになるのかも知らなかった……この仕事は自分で考えるところがあるじゃん、相手によって対応が違うわけだからさ」
 この言葉に主人公は強い影響を受ける。
 もちろん、そういうふうに考える人がいてもいい。人の考えはさまざまだろう。だがその言葉で主人公が人生を考え直し始めたところで小説が終わってしまうと、一生を現場で働いてきたぼくとしてはやはり面白くない。ヒト相手の仕事(サービス労働)ばかりが意義ある仕事で、モノ相手の仕事(生産労働)は無意味な仕事であると言われている気がしてしまう。ぼくの個人的な感想かとも思うのだが。
 短編なのだから、こんなものなのかもしれない。こういうものを読んで足らないと思うところが、ぼくが書きたいと思うところなのだ。
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