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木沼さんへ

 メールをありがとうございました。嬉しいメールだったので、こちらで公開で返事を書きます。
「ノロ鍋」と「盗難」を縦書に変換して読んでくださったとのこと、掲載した「まがね」が余っていたのに、お送りすればよかったです。たしかに小説は横書では読みにくいですよね。
 <と言った>という箇所の多いのが気になったという点、ご指摘のとおりです。ぼくが日本文学をまるで読まずに翻訳ものばかり読んでいたので変な癖がついたのです。欧米の小説は平気で<と言った>を繰り返します。でも日本語でそれをやられると気になるということに最近気づき、極力使わないようにしはじめました。「まがね」では若干修正しているかもしれません。ブログ掲載の方が早かったので……。
 2009年に退職し、2010年に「まがね」に復帰して、最初に書きはじめたのが「ノロ鍋」でした。30枚くらいのつもりで書いていたのが終わらなくなって、50枚くらいのところでやめればよかったのですが、その続きが書きたくなって、「まがね」には長すぎるということになりました。そこで「盗難」を最初から50枚と決めて書き始めました。ところが締め切りに間に合いそうになくなって、「三郎の不思議な日々」という児童文学でお茶を濁しました。結局締切りが大幅に延びたのですが……。
「盗難」は11年の秋の号に載せ、「民主文学」の推薦作に応募したものの、一人強く押してくださった方はいたのだけれど、他の審査員の賛成を得られず、落選しました。
「ノロ鍋」は13年に前篇、後篇に分けて載せました。じつはこれは11年だったか、「民主文学」新人賞に応募したのですが、一次審査も通らずに終わりました。「まがね」への掲載後、サークル誌評でコテンパンにやられました。
 どちらも未熟な作品です。30年間書かずに来ましたので、すっかり腕が落ちていました。どちらの作品も現場の描写の分かりにくさを指摘されました。ぼくとしては説明したくなかったのです。いっさいの説明を排して、読者をじかに現場に連れて行く、という気持ちがあったのです。その気持ちは間違いなかったと思うけれど技術がそのレベルに達していませんでした。自分のレベルを認識できていなかったのだろうと思います。いまなら丁寧に説明します。
 登場人物も、もう少し丁寧に書くべきだったと思います。
 ただ、内容的には、「民主文学」の評論家たちとの間にどうしても妥協できない点があります。ぼくにはぼくの「労働者観」があります。これは絶対に妥協できない。そしてたぶんその点でぼくと「民主文学」とのあいだにはしっくりこないものが残り続けるだろうと思っています。
 ブログを始めたのは、「ノロ鍋」が新人賞を落選し、長すぎて「まがね」にも載せられない、載せると大変な金がかかるということで、ただで読んでもらうにはブログが最適だと思ったからです。当時は「ノロ鍋」の欠点をまだあまり自覚できていませんでした。ところがブログというのは長い小説を読んでくださるような方は最初から寄り付かない場所ですね。勘違いしていたのです。いままでに読んでくださったのは、ときどきコメントを下さる高原利生さんと、あなたが二人目です。
「ノロ鍋」と「盗難」のあと、現場ものをもうひとつ書きかけて150枚まで書いていました。でもごたごたが続いているあいだに、すっかり意欲を失ってしまった。
 40年間現場で働いていたので、材料はいっぱいありました。でも小説というのは、そのときに書かねば駄目ですね。現場を離れて数年が経過すると、もうそんなことはどうでもよくなってしまったのです。
 ひとつには労働現場の変化の激しさがあります。労働環境も労働も労働形態もそして労働者自体もどんどん変化します。現場を離れてしまうともう今の労働が把握できない。過去のことを書いても何をいまさらという気がします。ぼくが労働や労働者を書きたかったのは、どの小説を読んでもそこに描かれている労働も労働者も違うと感じたからです。だからそれに対抗してぼく自身の眼で見たほんとうの労働者を書きたかったので、ありきたりの労働者なら最初から書く意義はありませんでした。
 誰も読んでくれない小説を読んでいただけたことがうれしかったので、つい長々と自分勝手なことを書きました。「まがね」はいずれまとめてお送りします。
「福ミス」の二次審査が迫っております。たぶんあと一週間くらいで決まります。駄目だとは覚悟していますが、一応その結果を待って今後のことを考えたいと思っております。
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