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高橋篤子「ウッナイ」(民主文学15年7月号)

 今月号で最も文学的な作品。というか、久しぶりに文学作品に接したという感じ。美しく、豊かな日本語世界がそこにある。読んでいて心地よい。何故なのだろうと考えたら、ひとつにはリズムなのだ。言葉が非常にいいリズムを刻んでいる。
 タイトルでわかるとおり、アイヌの話である。この人のアイヌ話は前にも読んだ覚えがある。本人自身アイヌなのかと思ったら違った。和人だが、アイヌの多い地方に住んでいる。(これは視点人物がそうだというだけで作者もそうだとは限らないが、たぶん同一視してよいだろう)。
「アイヌ神謡集」を遺して19歳で逝った知里幸恵、その弟で北海道大学で言語学の教鞭をとりながら、アイヌ語の研究に一生を費やした知里真志保、その他さまざまな人々を、アイヌ語の独特の難しさに音を上げながらも惹かれていく葉子という年配の和人女性の視点で描いていく。ここではこの三人称の葉子と作者とがほとんど一体化しているのだが、どういうわけか違和感がない。それはたぶん、作者の眼が葉子ではなく、葉子の眼の先にある人々に注がれているからで、葉子自身が三人称でありながらむしろ語り手という役割をはたしていて、主要な人物が彼女ではないからなのだろう。
 熊を赤ちゃんのときから、自分自身の孫と一緒に抱いて育てながら、成長すれば祈りを捧げて殺し、その肉を食べ、毛皮と肝とを売る。自然と一体化したそういう生き方。その孫娘、織恵は、アイヌと知られて恋人に逃げられ、生涯独身で通す。その母親で、当時としては高い教育を受けながらアイヌと結婚した和人の女。その夫は和人向けの観光写真で生きた人だ。
 アイヌの歴史には言い尽くせない物語がある。そして話の中心はアイヌ語なのだ。どうしても理解できない複雑な文法を持つその言葉。それはアイヌの暮らしそのものを語る言葉である。織恵がアイヌ語学校の生徒のために用意したアイヌ語辞典は、バチェラー辞典、萱野辞典、田村辞典、中川辞典とさまざまあり、1938年初版の第4刷ジョン・バチェラー「アイヌ・英・和辞典」は定価23000円である(桁を間違っているわけではありません)。織恵は大金をはたいて準備し、無給のボランティアでアイヌ語を教えている。「文化とは言葉だ」という信念がそこにある。
 ひとつ面白い話。「チンポ」がアイヌ語かも知れないという説。アイヌ語では、CHI―陰茎、 CHIN―内股、PO―可愛いものにつける言葉。すなわち「内股にある可愛いもの」になる。
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