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成田富月「つなぐ声」(民主文学新人賞佳作)

 新人らしく若い。41、2才。
 読みやすくそれなりに面白かったのだが、少し時間が経ってみると、あまり印象が残っていない。いちばん鮮明な記憶を残しているのは、ラストで若井が坂田に殴り込みをかける場面だ。ここだけは描写に力があった。
 好意的に読めば、ずっと力をセイブしていて、最後に吐き出したのだ、というふうにもとれなくはない。
 だが、そこへ行くまでがやはりあまりにも行儀が良すぎる。優等生の文章が続いていく。読みやすいのだが、個性がない。会話がいわば棒読みされている感じ。小説としての躍動がない。
 結局若井が主人公なのだが、客観描写で淡々と書いていくので、印象が焦点を結ばない。だいたい登場人物たちの背景が分からない。電話相談のボランティアたちなのだが、主人公の若井にしても学生なのだか、何なのだかさっぱりわからない。どうやら少し様子が分かるのは、ボランティアではなく事務員の細本一人である。
「CAVA!」と同じ電話相談でありながら、決定的に違うのは、あれがユーザー相手のトラブル相談で、つまり消費者に向けたメーカーの、金儲け事業の一環としてのアフターケアーであるのに対して、こちらは困窮者向けの生活相談という趣のある、建前は自殺予防のボランティア事業である。むしろ「月明りの公園で」との共通性の方が高い。
 金儲け事業には緊張感がある。日々が競争であり、負ければ明日から食べていけない。そういう切迫感で読ませる。
 こちらはボランティアだから嫌になったら辞めれば済む。その点「月明り」とも違う。あれも商売だった。
 どこで読ませるかというのが難しい。ボランティアたちの背景が是非とも必要だったと思う。彼らがどういう事情からボランティアに来たのかが分からない。少なくとも主人公の若井についてその背景を書かねばならなかった。このずっと大人しかった危うげな青年は、ラストの土壇場に来て鮮やかに変身する。そこはたしかに見事だった。だが、やはりあまりにも青年が具体的でなさすぎる。
 井沢の造形も中途半端だ。井沢節を発揮した途端にたしなめられて納得してしまうのでは、井沢節でありようがない。
 河内のセリフはこれは悪いセリフの見本だろう。小説のセリフじゃない。マニュアル本を読まされているみたいだ。だから読みやすくても、小説を読む愉しみがない。
 河内のセリフの内容はいちいちもっともなのだ。ぼくも最近そんな経験をしたが、禁煙の苦しさについて愚痴を言っているのに対して、ご親切にアドバイスしてくれる人たちがいる。アドバイスが欲しいんじゃない、たいへんだね、頑張ってね、と同情してほしいだけなのだ。それを「こうすりゃいい、ああすりゃいい」とおせっかいを焼きたがるアドバイス好きにはこちらがカッと来そうになる。もちろん禁煙経験者からの、同情をこめた、体験に基づいたアドバイスはありがたいのだが、喫煙経験のない連中からの、知ったかぶりのアドバイスほどいやなものはない。
 そういうことを指摘している河内の言葉はすべて的を射ていて、うなずきながら読んだ。だが、それでは教科書であって小説ではないのだ。
 この作者はそのへんがまだよく分かっていない。
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