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「民主文学」9月号

 このところ中断してしまったが、その前まで小説に専念していたせいもあって(そればかりではないが)、読書が出来ていなかった。特に「民主文学」が読めなかった。いつも連載以外は隅々まで読んでいたのが、7月、8月と一行も読めないうちに9月号が来た。連載も一年分まとめて読むつもりだったのがのびのびになっている。
 ひとつには多少職業作家のものを読んだ後、アマチュアっぽいものに食指が向かなかったということもある。
 しかしいつまでも溜めておけないので、今回まず9月号からとりかかった。読んでみると、「民主文学」の良さはこのアマチュアっぽさではなかろうかと思えてくる。そこにはたしかに作りものではない現実の生活の手触りがある。
 今月は短編特集と銘打って、六作である。それでページをめくる気になったとも言えよう。

 最も印象強いのは石井斉の「倉庫番」である。全体は倉庫労働の描写だ。文章は、日本語表現としてはぎこちなさを感じる。にもかかわらずそこに書かれているものは的確で過不足がない。
 倉庫労働というのは比較的わかりやすい労働で書きやすさはあるだろうが、それでも賢明に省略を利かせて、分かりやすい要点に絞っているのが感じられる。何でもかんでも書いてわけが分からなくしてしまうぼくのような失敗はしていない。労働している姿が活き活きと感じとれる。まずこれがよい。参考にもなる。
 そして登場人物たちの描写がすばらしいのだ。どれも一癖ありそうな人物で、決して善人ぞろいではない。その一癖ありそうなところを、くどくど説明せずに、何気ないセリフで表現している。はっきりとはつかめないが何かありそうなところを暗示するその抑制された書き方が、人物の実在感を際立たせて、魅力的である(ただヒロインはちょっと理想的すぎたが)。
 そう思って読んでいると文章のぎこちなさまでが、なんとなく魅力的に思えてくる。
 小説とは不思議なものだ。
 この作家は、その文章の形から想像するよりもずっと才能のある人だ。何を書くべきかを心得ている。

 東喜啓は前回の作品が面白すぎたので、ちょっと期待はずれだった。子供向けのポニー乗馬教室の指導員という珍しい職業を扱っている点には興味を引かれた。こういう様々な職種を紹介してくれるところに「民主文学」の良さがある。
 気弱な登場人物が最後に反発するところには爽快感があった。ただ全体として結局スポ根ものになってしまっていないかという疑問を感じた。

 加藤節子の「ポスター」は随想風の書き方だが、被災地支援の活動に、急死してしまった一人の女性の面影を重ねて読ませる作品になっている。ただ、もう少しこの女性を詳しく書いてほしかった。

 宮崎和佳子「チェルノブイリ・ヒロシマ」
 ベラルーシ・ルポに、被爆二世の義妹・義弟を重ねて放射能の残酷な影響を訴えかける。いま読まれるべき作品だろう。ルポ形式が成功している。

 里村徹「掲示板」
 これはちょっとどうかなという感じ。75才の高齢で書かれたことは敬意を表するが、問題点をうまくまとめて上手に小説に仕立て上げたぞ、という感じ。殻を突き破る人間の実在感がない。これでは読者の心に残らない。

 仙洞田一彦「四十年後の通夜」
 たまたま作者の年齢も、作者の父親の生年も、ぼくとぼくの父に同じだと知った。そこに感慨深いものがあった。生きてきた環境はまるで違う。いろいろな人生があったのだなという、同世代に対して感じる思いである。
 この人の書いた何作かには批判もしてきたが、一方大変興味を持たされた作品もいくつかあった。常に関心を持たされる作家である。
 今回作は小説というよりも手記で、40年前28才のとき58才で亡くなった父親を題材に20年前に書いた自作に対して、自ら批判を投げかけている。それが主要モチーフとなっているのだが、読者の関心はむしろ父親の人生のほうに向かう。それだけを書いたほうがよかったのでは、と思わされた。
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