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右遠俊郎「遠い春」「無傷の人」

「遠い春」31才
 敗戦間際の旅順高校新入生たちが自由を抑圧する学校がわに反抗する話。
 青春のさわやかさを感じる。面白いのが、万葉集の教授が、「英米の自由と日本の自由とは違う」と説教するくだりだ。いまの中国の権力者たちの言いわけを連想してしまう。
 いまさら珍しい小説ではないけれど、こういうものはもっと読まれるべきだろう。というのは戦前を経験していないわれわれ以後の世代は、それを何か別世界のこととしてしか受け止められないところがあるからだ。
 あれは軍国主義の昔の話、いまは民主主義の世の中。こういう思い込みがありはしないか。
 しかし民主主義は戦後忽然と生まれたわけではない。いまの民主主義とは比較にならないにせよ、それでもヨーロッパ流の民主主義が、少なくとも中間層以上にはかなり浸透し根付いていた。それが徐々に奪われていった歴史があった。
 だからこそ、敗戦後それはいっせいに開花した。「告別の秋」において、結核療養所での自治運動が敗戦後すぐ始まるのを見てもそれが感じられる。
 敗戦には日本の解放という側面がたしかにあったのだ。民主主義は押しつけられたわけではない。むしろ押し付けられていたのは軍国主義だった。
 それゆえに、いまの民主主義がふたたび徐々に破壊されていかないという保証もまた、ないのである。

「無傷の人」32才
 これは驚くべき才能である。もっと読まれるべき作家だ。「民主文学」の枠のなかに埋もれてしまっていい人ではない。
 ここでは書物の知識が生活のなかでいかに無力であるかが描かれる。現実にまみれて自ら傷を負わねば知識には何の意味もないという自分自身への告発なのだ。
 これを書くということ自体が、すでに自ら傷を負うことであろう。その覚悟がなければ書けない作品である。それゆえにそれはまた読者である我々自身に突き刺さってくる。
 30年前、せっかくこの人に近づく機会を与えられながら、読んでいなかったばかりに見逃してしまったことが悔やまれる。
 作品に圧倒されたので、ストーリー紹介はできない。ストーリー以上に叙述そのものが圧倒的なのだ。未読の人はぜひ読んでください。
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