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「民主文学」4月号

 今年は「民主文学」がなかなか読めず、そろそろ6月号が来るころなのに、今日やっと4月号を読んだ。小説4篇、それぞれに関心を持たされた。

 風見梢太郎「夜更けの訪問者」

 ミステリー仕立ての表題で、作品の形式はそれにふさわしく作られている。ただし、内容は「海洋投棄」の続きで、原発ものである。
「海洋投棄」評を書いた時、重い事実問題をフィクションという形で(真偽不分明で)書いてよいのかというコメントを「浪人」と名乗る方から受け取った。
 今回の作品には秘密保護法をからませており、原発に迫ろうとする者が法との関係で緊張感を持たされているという事態が、ミステリー仕立てで不気味な迫真性を持って表現されている。
 だが主に語られるのは、放射能の海洋流出の問題であり、これを小説で語る理由は何であろうか、と「浪人」さんのコメントも絡めて考えさせられた。
 科学的な報告書として書ける内容なのではないかという疑問を持ったわけである。
 しかし、小説というものを、こうでなければならないと四角四面に考える必要はないのではないか。訴えたいこと、世間の人に知ってもらいたいことがあったので、それを小説にした、ということもあっていいのだと思う。
 作者は書いている内容を百パーセント真実だとは書いていない。かなりの自信は持っているようだが、「やはりそれは推測だ」としている。判断材料の一つとして、読者に情報を提供しているわけである。そこから先は読者の仕事であろう。

 能島龍三「青の断章」

 作者は49年生まれで戦争を知らないわけだが、特攻隊をめぐる周辺状況から個々人の精神問題まで、描写が丁寧で、臨場感があった。綿密な取材を取材と思わせない生きた現実としてそこに投げ出している。これができるかどうかが、作品が小説になるかならないかの境目なのだろう。
 主人公は特攻が無駄死にだと知りながら、「天皇はじめまちがった戦争の責任者たちがみんな自殺して責任をとるだろう。自分も戦争関係者の一人として死のう。そこから新しい日本が始まる」と考えることで自分を納得させる。
 これと関連して、朝日の文芸時評が、裕仁は平和主義者であったという内容の本に賛意を表明しているのにカチンときた。今年の文芸時評担当者はとんでもない人間だ。ぼくはその本を読んだわけではないが、評の趣旨が気に入らない。日本人を大勢無駄死にさせながら、責任を取らなかった人物を評価することなどできない。
 その意味でもこの作品の示したものは重くかつ明解である。

 仙洞田一彦「朝ビラ」

 リストラ問題を丁寧に描いた作品なのだが、どう受け取るべきなのか、よく分からなかった。取締役が現実にはしゃべらないようなことをしゃべる、それは小説的な作り方としてあり得るし、その部分はけっこう面白かった。出世に見離された同期の型破りの人物像もよく書けていた。組合活動家のわかるような分からないような人物像、同じく曖昧な妻の姿も、それはそれとして一応物語に収まっている感はある。
 どこが不満なのかというと、主人公がなぜたたかいを選ぶのかが見えてこないのだ。たたかいの決意に説得力がない。

 最上 裕「美幸荘」

 4月号ではこれがいちばん面白かった。
 たまたま4月号は乙部宗徳の「通俗とは何か」が掲載された号である。これだけは最初に読んでこのブログでも取り上げた。
 一言で言って、最上裕の今回作は、乙部氏の通俗定義がそのまま当てはまるような作品である。
 文章は非常に軽く読みやすい。ストーリーは波乱万丈で面白い。人物は、たまたまぼろアパートの隣人として居合わせた三人が、そろって善良で面倒見の良い人ばかり。その人物像は明瞭で、読者の好感を呼ぶ人ばかり。
 こんなことってありえないが、読んでいて一番楽しいのがこういった作品なのだ。
 ぼくはやはり「通俗」を大事にしなければいけないと思う。最初に書いたが、小説はこうでなければという思い込みは捨てるべきだ。小説はさまざまであってよいのだ。
 なおこの作品には労働描写があった。そこもたいへんよかった。

「民主文学」は論じないと言いながら論じてしまった。異論はあるだろうが、あって当たり前だ。ぼくはぼくの感じたように書く。読み方は浅いかもしれないが、ひとつの感想だ。異論は書いてくれればいい。たぶん再反論はしない。そんなところで時間をつぶしたくない。判断は読者にまかせよう。
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コメント
245:脱帽 by 石崎徹 on 2014/05/03 at 14:48:24 (コメント編集)

 働きながら、家庭を持ちながら、作品を書きながら、ほかにもいろいろやりながら、よく次々と読めるね。あなたのエネルギーには脱帽です。ぼくはてんでだめだ。

244:フィクション by 笹本敦史 on 2014/05/01 at 18:15:26

今日、池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」を読み終わって、フィクションとは何かという問題意識を持ったところ。考えがまとまらないので文章にならないのだけど。

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