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まがねとおる

Author:まがねとおる
無名人
新潟の同姓同名はまったくの他人
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コスモス 2

 一幕P場              

      幕が上がるが、中間幕は閉じたまま。せまい場所だが、袖に近く粗末な机と、それをはさん
      で二脚のやはり粗末な椅子を置く必要がある。なお、できたら、中間幕に格子のついた窓。
      机よりに、舞台中央を向いて、たたずむ男(古田)。やがて。

男1  (つぶやく)幕が上がる……たたずむ男……沈黙。

      沈黙。ややあって、再びつぶやく。

男1  幕が上がる……たたずむ男……(少し長い間)……沈黙。

      沈黙。やがて、次のせりふとともに歩き始める。

男1  やがて……男は歩き始める。舞台袖から、ゆっくりと中央へ……中央へ……中央へ……中央だ。
    立ち止まるか? いや、立ち止まらない。男は歩き続ける。ゆっくりと……反対の袖に向かって。

      袖にくる。間。しばらくの後、再びせりふとともに中央へ向かう。

男1  男はなおも歩く。ためらいがちに……ためらいがちに? はは(やや自嘲的な笑い)、ぱくりだ。
    ためらいがちだと?……まあ、いい。これはト書きだ。せりふじゃない。お客には聞こえない。

      つぶやきながら、中央を素通りしてもとの袖へ。そこからまた中央へと向かう。

男1  (歌う「シクラメンのかほり」)ためらいがちに……(首をふって)……ばかばかしい。これはロマ
    ンスじゃない。妙なムードを出すなってんだ。……とまどいながら……そうだ、とまどいだ。

      中央へ立つ。

男1  さて、舞台中央……舞台中央。それから? 「それから」、だ。「三四郎」じゃないぞ。(再び自
    嘲)もういい! ……それから、だ……それから、どうする。何が起こる……何も起こらない。
    人生には何も起こりゃしない。何か起こるのはいつだって芝居の中でだけなんだ。でもこれは芝
    居だからな。何か起こらなきゃならない。なにか……なにか……とりあえず、せりふだ。まず、
    せりふがなくっちゃ、始まらない。はじめに言葉ありきだ……今度は「ヨハネ伝」のぱくりか? 
    「はじめに言葉ありき」。どうして、言葉なんだ? ことば、ことば、ことば……言葉が何かを
    意味した時があっただろうか。言葉は、いつまでたっても、ただの言葉だ。

      女(半井)、登場。男に向かって歩きながら。

女1  でも、言葉は必要よ。(立ち止まる)
男1  (女のほうを見ないままで)そりゃそうだ。言葉がなきゃ、パントマイムだもんな。
女1  言葉の意味なんて大事じゃないわ。
男1  芝居ってのは昔から言葉で成り立っている。
女1  大事なのは、言葉の意味じゃないのよ。
男1  芝居の基本はせりふにある。せりふとアクション。大袈裟なせりふと、大袈裟なアクション。表
    情なんか、どうせ後ろの客には見えやしないが、それでもなるべく目立つように眼や眉毛を描く。
    そいつをよく見えるように動かす。こんなふうに。

      男、舞台中央で見得を切る。女、やれやれというように、男から離れて、そっぽを向く。

男1  そこが芝居と映画の違いなんだよな。映画じゃ、大袈裟なものはすべて鼻につく。大袈裟なせり
    ふ、大袈裟なアクション、大袈裟な表情、すべて、ノーだ。だいたいせりふの多い映画はうんざ
    りする。映画はカメラと音楽の芸術だ。眼はほんの少し動くだけでいい。それをクローズアップ
    して音楽を流す。これが映画だ。芝居はそうじゃない。芝居はせりふだ。
女1  せりふとアクション。
男1  アクション?
女1  (男に向かって)そう。アクション。
男1  (つぶやく)アクション……
女1  そう。アクション。あなたは、いつも、ただ突っ立っているだけ。でくの坊みたいにね。言葉の
    意味を信じないって? そう言うくせにいやにせりふが長いじゃない。

      男、舞台上を再びうろつき始める。ゆっくりと、とまどいながら。

男1  (歩きながら)せりふが長い? 長すぎる? もちろん、言葉に意味なんてない。でもこれは芝
    居だから……
女1  意味は要らないの。なのに、あなたは意味を探している。
男1  (相変わらず、女を見ない)探している? そうさ、誰だって探すさ。意味はないと思っていて
    も、みんな意味が欲しいんだ。
女1  ごまかさないで。意味が欲しいのは、あなたじゃないの?
男1  (はじめて女を見る)ぼくが? ぼくが欲しがっているって? (再び視線をそらして) ……そ
    うじゃないさ。芝居が欲しがるんだ。芝居にはクローズアップはないからな。伝えたいことは言
    葉で伝えなきゃならない。
女1  もちろん、ね。でも言葉の意味で伝えるわけじゃない。言葉は芝居を成立させるのに必要だけど、
    そして、芝居は何かを表現したいわけだけど……
男1  (女を見る)ちょっと待った。表現したいのか? それとも伝えたいのか。
女1  それは同じ意味よ。あなた方は表現か伝達かという無意味な論争を長々とやっていたけれど、そ
    れは同じことを違う言葉で言っただけだったのよ。
男1  君はずいぶんあっさりと答を出すね。
女1  だって、最初からわかりきっていたもの。ちょっと待って。わたしが言いかけていたのは、お芝
    居でなにを表現するにせよ、それは言葉の意味を使ってじゃない。言葉はそのために発せられる
    わけじゃないってことなのよ。
男1  じゃ、何のためだい。
女1  それは人間が言葉を発する動物だからよ。だから人間を表現するためには言葉がいるの。

      間

男1  わかったよ。君の演劇論はわかった。でも、だから、ぼくは困っているんだ。ぼくは言葉以外の
    もので表現したい。だのに、いつも言葉が邪魔をするんだ。ぼくが表現したいのは……たとえば、
    ひとつの風景なんだ。幕が上がる。たたずむ男。沈黙。歩き始める。これはひとつの風景だ。で
    もこの中には、物語や感情がいっぱい詰まっている。
女1  そんなもの、お客にゃわかりゃしない。
男1  そう、わからない。それで無意味なせりふをしゃべらせて、物語を作る。……ああ、なんて無意
    味なんだろう……人間はどうしてしゃべったりするんだ?
女1  コンタクトしたいからよ。
男1  無意味な言葉でかい?
女1  だから、最初から言ってるじゃない。言葉の意味でコンタクトするわけじゃない。意味なんてど
    うでもいいのよ。ただ言葉を発するという行為が、人と人とをつなげるの。
男1  そうかい。でも言葉は人と人とをつなげもするかもしれないが、切り離しもするぜ。無意味な言
    葉が、ときとして意味を持ち始めるんだ。それも意図しなかった意味をね。ぼくには言葉は人を
    切り離す道具にしか思えない……

      間

女1  で? ……あなたはまだ意味を探してる? 
男1  意味……なのかな……ぼくはむしろ動機が欲しいんだ。
女1  動機?
男1  人が行為するには動機がいる。そうだろう? でも動機ってなんだい?  君は梅干を食べるか
    い?
女1  いきなり、なによ。
男1  どうなんだ。
女1  まあね。
男1  なぜ食べる?
女1  おいしいからよ。
男1  へえ? あんなすっぱいものが?
女1  食べてるうちにおいしくなったのよ。
男1  だろ? ずいぶん不確かな動機だ。
女1  人は訓練されるのよ。
男1  それだ。いったい何のために訓練するんだ?
女1  健康のためよ。
男1  なぜ健康でなきゃいけない?
女1  長生きするためとか、快適に生きるためとかあるじゃない?
男1  なぜ、快適で長生きしなきゃいけない?
女1  あなた、死にたいの? 死にたいんだったら死ねばいいじゃない。前提の違う人とは、話でき
    ない。
男1  そうだろ。そういう前提のもとに人は話しているんだ。でも、そんな前提には何の根拠もない
    んだ。
女1  人間は動物だから、生命欲を持っている。
男1  でも人間はそれを否定できるんだ。
女1  何のために?
男1  肯定しなきゃいけない理由がないからだよ。
女1  ほら、それじゃない。あなたが探しているのは、理由とか意味とかいうお題目なんだ。
男1  お題目か。ふん。お題目だってさ。
       
      男、突然、両腕を真横に伸ばして、直立する。以下の男のせりふはしばらくそのままの姿
      勢で。

男1  ぼくは樹だ。何の樹か知らないが、ともかく樹だ。何の樹でもいいんだ。ぼくは樹だ。

      女、あきれ果てて、両腕を大きく振る。

女1  また始まった。あなたの病気はまだ治ってなかったのね。
男1  ぼくは樹だ。ぼくはしゃべることができない。
女1  さんざん一人でしゃべっておいて、都合が悪くなると、病気に逃げ込むのよ。
男1  ぼくは樹だ。
女1  あなたはじゃなくて、びょうきなの。

      女、あきれ果てて男を見る。やがて、あきらめ。首をふり、袖に向かって歩きながら。

女1  誰か来て。また始まったわ。

      女、退場。
      いつのまにか、袖に近いほうの椅子に、初老の男が腰かけている。医者なのか、刑事なの
      か、はっきりしないが、便宜上刑事と呼ぶ。Q場では小川の役。刑事は鉛筆を持って、何
      かをしきりに書いている。やがて、書き終わったらしく、鉛筆を置いて、男を見る。

刑事  わかった……。そこまではわかったよ。わたしたちはどうやら、ようやく端緒にとりかかった
    ようだ。問題は……動機だ。わたしはまだそれがつかめてない。君はどうなんだ。動機を見つ
    けたのかね。
男1  (樹のままで)あの……
刑事  どうした?
男1  ぼくはまだ樹なんだけど。
刑事  なに、かまうもんか。樹だろうが、ライオンだろうが、わたしゃ一向に気にしないから、こっ
    ちへ来たまえ。

      男、少し迷った後、意を決して、樹であることをやめ、机に近づく。ところが途中でつま
      ずき、そのまま、床に伸びてしまう。

刑事  ほらほら、樹ばかりやってると、足がなえてしまうぞ。

      男、憤然として立ち上がり、刑事をにらみつける。

刑事  まあ、坐ったらいい。噛みつきゃしないから。

      男、乱暴に掛ける。

刑事  わたしだって、若い頃はあったから、君の気持ちがまったくわからないというわけじゃない。
    その、つまり、なんだな……若者に特有の……一種こう……宙ぶらりんの気持ち、根が生えて
    ない感じ、ふわふわと漂って、どっちを向いていいのかわからない感じ、君が樹になりたがる
    のもわかる。樹はしっかりと立っている。根が生えている。樹は迷うことがない。だが人間は
    歩かなきゃならない。歩く以上、どちらかに方向を定めなきゃならない。だが、そこで、動機
    が欠けている、というわけだ。右を選ぶも、左を選ぶも、選ぶ理由がない。どうして人々が自
    信満々にひとつの道を選ぶことができるのか、君は理解に苦しむ。動機がないから、前へ進め
    ない。

      刑事、言葉を切って、男の反応を見る。

男1  (ぶっきらぼうに) 訊いていいか。
刑事  どうぞ。
男1  ぼくは、あの女を殺したのか?

      刑事、身をそらせて、しばらく無言で男を見やる。やがて。

刑事  なぜ、そう思うんだね。
男1  そりゃ、動機はあるかもしれない。あんなつまらないことを動機と呼ぶならね……ひとが二人
    いりゃ、しょっちゅう、くいちがう。そこにほかの人間たちが絡んでくる。どうってことのな
    い人間たちなのに、その絡まりあい方といったら! じつにばかばかしい。単純かつ頑固。
    ……ぼくにだって感情はあるから、傷つくこともあるさ。でも、動機と呼ぶにはお粗末だ。

      刑事、しばらく男を見ている。
      やがて。

刑事  おもしろい。やっと本題に入ってきた。ぜひ、その話を聞こうじゃないか。

      中間幕が開くにつれて、スタッフが机と椅子とを片付ける。男1は古田に、刑事は小川に
      早変わりして、配置につく。(難しければ、いったん照明を落してもよい)
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