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まがねとおる

Author:まがねとおる
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コスモス 1


 コスモス

時   現代
場所  コンビナートのある、地方都市
季節  秋から冬にかけて
    序幕、終幕は二年後の秋
登場人物
 Q場  
  古田 (ふるた)
  中野 (なかの)
  半井章子(なからいしょうこ)
  岡崎 進(おかざきすすむ)
  宮内真理(みやうちまり)
  小川  (おがわ)
  峰小枝子(みねさえこ)
   (以上いずれも、二十代)
 P場
  男1(古田)
  女1(半井)
  男2(中野)
  女2(峰)
  男3(岡崎)
  女3(宮内)
  (以上全員Q場と同じ年代)
  刑事または医者(小川)初老

 序幕終幕のある四幕。
 序幕以外はP、Q二場構成。
 P場は常に中間幕の手前で演じられ、中間幕が開くとQ場である。
 P、Q場の役者はダブっているが、どういう意味であるかは不明である。

 序幕                 

      幕が開くと、中間幕にスクリーン。スクリーンに小さな橋が映る。一応、川にかかってい
      るのだが、その端は両側とも地面から一メートルほど浮いていて、階段も何もない。どこ
      からもこの橋には来れず、どこへもこの橋からは行けない。(具体的には、三菱病院東側
      の、八間川にかかる橋を映せばよい)
      ナレーション。

ナレーション  

    水島には
    空に浮かぶ
    橋がある

    何にもない
    空の上に
    ぽつんとひとつ
    橋がある

    ここに来た
    人たちは
    どこから
    来たんだろう

    ここから行く
    人たちは
    どこに
    行くんだろう

      映像が消え、中間幕が開く。古田の部屋。机と椅子。古田が椅子に腰かけて、何か書いて
      いる。やがて、鉛筆を投げ出し、机を背にして、つぶやき始める。

古田  ……何かが始まる……て、わけでもない……だって、そうだろ? 人生は続いていくが、何も
    始まらないし、何も終わらない。……人生はどこからか来て、どこへか行く……それは見知ら
    ぬ街? あるいは倦むほどに知りすぎた街……

       間

古田  ……人と人とは、あるとき出会い……しゃべり、笑い、泣き、そして、結局、何事もなかった
    ように通り過ぎていく……始まりもなければ終わりもない……ただ時間が経っていくだけ……

      中野、登場。

中野  古田、いるかい。
古田  (聞こえてない) だが、それをどう表現することができるだろう。劇は始まり、劇は終わる。
    人生は始まらない、終わらない。……(唐突に笑い出す) はは、ははは。

      中野、古田の独り言に首をひねっていたが、突然の笑いにぎょっとする。

中野  何、笑ってるんだ、おまえ?
古田  (中野に気づいて) やあ、中野じゃないか。来てたのか。
中野  やあ、来てたのか、じゃないだろう。ひとりでなにやらぶつぶつ呟いていたかと思ったら、突
    然笑い出す。大丈夫か、古田? 
古田  大丈夫かって……何かあったのか?
中野  別に何にもねえよ。
古田  変なやつだな。まあ、坐れよ。
中野  どっちが変だ。坐るとこなんてないじゃないか。
古田  まあ、どこでも坐ったらいい。
中野  (見渡す)ここ、きれいなのか? 汚れそうだな。(言いながら、腰を落として、あぐらをかく)
古田  時々は掃除してるさ。元気かい?
中野  そりゃ、こっちのせりふだ。さっぱり、顔も見せなきゃ、ケイタイはあいかわらず通じやしない。
    やっぱり、スイッチ、切りっぱなしか?
古田  とっくに捨てちまったさ。
中野  捨てただと?
古田  邪魔だから捨てた。
中野  邪魔だから捨てた? ……(つぶやく)何、考えてるんだ……。みんな心配してるんだぞ。飢え
    死にしたんじゃなかろうかってね。……首になったんだろう?
古田  首になったけど、まだ金はある。
中野  仕事の当てはあるのか?
古田  ない。
中野  探してるのか?
古田  まあ、あわてるな。
中野  誰があわてるんだ。ちぇ、のんきなもんだぜ。
古田  久々の休暇だよ。
中野  永久の休暇になっちまうぞ。今度の不況はちょっとやそっとじゃないぜ。……たまには外へ出る
    のか?
古田  食料を買いこみに行くぐらいだな。
中野  それじゃ、まるでひきこもりだ。気分転換しないと、滅入ってしまうぞ。
古田  こう見えても忙しいんだ。
中野  何が忙しいんだ。(つぶやく)どうも汚れそうだな。(立ちあがって、尻をはたく)
古田  考えているんだ……というよりも……感じようとしているんだ。まあ、坐れよ。
中野  いやだね、ズボンを汚したくない。何を感じたって?
古田  感じたんじゃない。感じようとするんだ。こういった、いっさいがっさい。ここに部屋があり、
    窓があり、机と椅子がある。
中野  埃もある。
古田  埃もあるかもしれない。そして、空間がある。
中野  空間はあるのか、何もないから空間じゃないのか? (つぶやく)もっとも埃はあるがな。
古田  とんでもない。空間は存在に満ちている……いや、そうじゃない、空間は存在そのものなんだ。
中野  (つぶやく)またわけの分からんことを言いだしやがった……。その存在がどうした?
古田  それを感じるのさ。それを感じることが大事なんだ。それを感じられなきゃ、前へは進めないよ。
中野  おれはおまえが後ろに進んでいるような気がするぜ。
       
      中野、しゃべりながら古田の前まで来て、古田の肩越しに、机をのぞきこむ。

中野  何か書いているのか?
古田  (ノートを閉じる) まだだ。でもいずれ書く。君らに演じてもらうさ。
中野  (さえぎられて、心外な様子) ……ま、いいさ。そう伝えておこう。……知ってるか? 岡崎
    が帰ってきた。
古田  (何かを感じた様子。中野を見つめて、しばし無言。つぶやく) ……そうか……(調子を変えて)
    で?……あいつも、首になったのか?
中野  おまえじゃあるまいし……。岡崎は、そりゃ、おれたち同様、私大出だから、大企業じゃ先は知
    れているが、工場の工程管理から、東京の営業へ行って、二年間で舞い戻ってきた。まあ、普通
    のコースなんだろうぜ。おれみたいに、ちっぽけな会社で、しがない営業をしこしこやってるの
    とも違うし、おまえみたいに、派遣の現場作業で、しょっちゅう首切られているのとも違うさ。
    これだけ不況になってくると、岡崎の身分がうらやましいね。
古田  そりゃ、おめでとう。
中野  おれに言ったって仕方ないだろ。……本人は変な夢を捨てきれないから、東京にいたかったよう
    だがね。そりゃ、芝居をするなら、東京がいいに決まっている。帰ってきたのは、夢を捨てて生
    活をとったんだろうが、そのくせ、また、始めようなんて言っている。
古田  何を始めるんだ?
中野  だから、芝居さ。
古田  エリートが田舎芝居に舞い戻るのか? 
中野  だから……あいつはエリートじゃないんだって。まあ、生活者にも役者にも、なりきれないやつ
    なんだ。
古田  選択肢があって、結構じゃないか。
中野  古田らしくないせりふだな。……峰小枝子も帰ってきてるって話だぜ。

      古田、急に立ち上がり、宙を見つめる。呆然とした様子だが、実は激しい感情を押し隠して
      いる。

中野  (古田の様子には気づかずにしゃべり続ける) 二人の噂は知ってるよな。 岡崎が転勤して、し
    ばらくして小枝子もいなくなっちまったからな。とても偶然とは思えなかった。……ま、それは
    それとして、毎晩また、例の、小川のおやじの廃工場に集まる。……おれも、われながら、つく
    づく物好きだよな。岡崎の気まぐれに付き合って、こうして、昔の仲間に声をかけている。ま、
    時勢がら、ひまなやつが多いから、結構集まりそうだ。いちばん暇なおまえが来んということは
    あるまい。(古田の様子に気づく)……聞いてるのか?
古田  (気づいて、椅子に腰を落とす)……あ、そうだな。行く人あれば、帰る人ありだ。
中野  昔の稽古場にまた来てくれって言ってるんだ。
古田  そうだな……どうかな……ひまでもないんだ。
中野  ひまじゃない? 感じることに忙しいってか?……「生きることにも心せき」
古田  「感ずることも急がるる」
中野  太宰治だ。おまえ、やばいんじゃないか?
古田  ぼくは太宰とは違うさ。
中野  まあ、いいや。気がむいたら、顔を出してくれ。じゃ、行くぜ。
古田  ああ、ありがとうよ。
中野  (舞台袖へ歩きながらつぶやく)ほんとに大丈夫かい。どうも変だ。 
       
      中野、首をひねりながら、退場。
      古田立ち上がる。

古田  小枝子が帰ってきた。小枝子が帰ってきた。小枝子が帰ってきた。

      しばし、呆然とした様子。やがて。
      半井登場。片手にコスモスの花一輪。

半井  (歩きながら、独白) 中野も、まめな男だね。あいつが来てるんなら、わたしが来るまでもなか
    ったか、な?……おや、様子がおかしいよ。やばいね。(呼びかける)古田君。       

      以下の二人のせりふは舞台上を適当に歩きながら。

古田  (びくっとして夢からさめた様子) びっくりした。……誰も彼も、勝手に入ってくるんだな。
半井  (観客に向かって) だって、ここ、どこからが部屋なのかわからないんだもの。(古田に) ほら、
    これあげる。(コスモスを差し出す)

      古田、受けとってぼんやりしている。

半井  コスモスよ、あなた好きなんでしょう?
古田  あ? コスモスね。まあね。(机のそばまで行って、放り投げる)
半井  (古田の行為にちょっと顔をしかめるが、すぐ気を取り直し) 中野君が来たでしょう? そこで
    会ったわ。
古田  満員電車だ。
半井  なんて?
古田  満員電車なみに人が来る日だって言ったんだ。
半井  頭のいい、女の友達が、何年ぶりかで訪ねてきてあげたのに、うれしくないんなら、帰る。
古田  (一瞬、しらけたのち、笑う) はは、うれしいに決まってる。まあ、坐れよ。
半井  いやよ。掃除してないでしょう?
古田  たまにはしてるさ。どっちだっていいがね。うれしいね。季節はいいし、時間はたっぷりある。
   (笑う)はは、は。
半井  なに笑ってんの? 
古田  うれしいのさ。ははは。
半井  大丈夫?
古田  うれしいんだよ。久しぶりに人としゃべったから……まったく……ぼくは自分が独り言をいう人
    間だなんて、考えたこともなかった。ところが気がついてみると、一人でしゃべっているんだ。
    一人でしゃべったり、笑ったり、歌ったり……
半井  それ、前兆じゃない?
古田  吉兆かい?
半井  前兆って言ったのよ。気が狂う前兆。
古田  うん。それもいいな。天才はたいていきちがいだ。
半井  (傍白) 逆は真ならず。
古田  (半井を見て、唐突に) 半井、君、ファッションが上手になったぜ。
半井  急になによ。
古田  ほめたのさ。役者にとって、ファッションセンスは大事だからな。
半井  古田君のセンスは当てにならないけどね。
古田  素直じゃないなあ。よろこべよ。
半井  ほかの人の反応も見ないとね。
古田  中野か?
半井  中野君はどうでもいいけど……(あいまいに)まあ、ほかの人たちよ。(古田を見る)みんな
    に会いたくないの?
古田  会いたいね。……(つぶやく)こういう感覚もいいもんだな。
半井  (横を向いて) まだ大丈夫みたいだな。
古田  (急に) 半井は舞台をどう思う?
半井  (つぶやく) またおかしくなってきたぞ。……(語調を変えて) なに、それ? 舞台が好き
    かって訊いてるの?
古田  この空間のことさ。ぼくは考えたんだ。この空間は、決して切り離された世界じゃない。この
    空間は、(みぶり)むこうにも、こっちにも、あっちにも、そしてこっちにも、ずっとつながっ
    ている。これは無限の……いや空間が無限かどうかはわからないが……まあ、空間全体の……
    その……切り取られた一部にすぎないってね。
半井  なんだ、そんなこと? それって誰でも知ってることよ。演劇のいろはでしょ?
古田  そうなのかい?
半井  そうなんだよ。
古田  そうか、ぼくははじめて気づいた。(また急に)そして、時間だ。時間だって……これまた無
    限かどうかわからないわけだが……でも、まあ、とにかく……幕が上がる。そしてすべてが始
    まる……そんなわけないよね。時間はずっと続いていて、劇はとっくの昔に始まっている。ぼ
    くらが演じるのは、いつも途中からだ。途中から、途中までだ。劇は始まらないし、終わらな
    い。いつも途中なんだ。だって、上演時間が限定されてるもんね。
半井  無限に続くお芝居なんて、誰も見たくないよ。(つぶやきながら、ふと机の上のノートを開く。
    読む)「幕が上がる。たたずむ男」
古田  (走ってきて、ノートを取り上げる)これはまだ書きかけなんだ。
半井  台本を書いてるの?
古田  まあね。でも書きあがるかどうかわからないよ。
半井  そう。無駄にひきこもっているわけじゃないんだ。
古田  ぼくは別にひきこもっちゃいないさ。
半井  投げやりになってるわけじゃないんならいいよ。でも、たまには気分転換してよ。きちがいに
    ならないうちにね。
古田  きちがい、ね。はは……そうだな……。(いきなり)岡崎が帰ってきたって?
半井  (瞬間、言いよどみ) ……ええ。
古田  そして、峰も?
半井  (ちらっと、古田の顔を見る。あらぬ方に視線を移し) ええ、峰小枝子もね。
古田  で、二人とも、君らの集まりに来てるわけか?
半井  いいえ、小枝子は来てないわ。まだみんな集まってるわけじゃないのよ。
古田  で、彼女は、その……峰は、どうしてるんだ? ……いったいどこで何をしていたんだ、二年
    間も?
半井  (古田を見る) あなた、何にも知らないの?
古田  君が何も教えてくれなかったじゃないか。いつもとぼけてね。本当は最初から知っていたんだ
    ろう?
半井  別に隠すつもりじゃなかったんだけどな。……東京の演劇学校にいたのよ。
古田  初耳だ。で、みんなそれを知っていて、ぼくには黙っていたってわけだ。
半井  馬鹿なこと言うんじゃないわ。あなたもあれ以来、わたしたちに寄りつきもしなかったじゃな
    い。それに……(言いよどむ)
古田  それになんだい?
半井  あなたたちのことは……たぶん、誰も知らないわ。
古田  そうかい。そして、岡崎と峰のことはみんな知っているってわけだ。ぼくらの間には何もなかっ
    たもんな。何もないうちにぼくはふられちまったんだ。
半井  あなたがふられたの? わたしの聞いた話と少し違うな。
古田  誰に聞いたんだ?
半井  誰って、小枝子によ。
古田  ふうん……

      間

古田   ……藪の中ってわけだ……。時が経ち、人生は過ぎていき、なにがどのように起こったか、
    あるいは、じつは何も起こらなかったのか、人々の言うことはそれぞれにくいちがい、真実
    はどこにもない。……ないんだろうね、きっと?
半井  あなたが……(ためらう)
古田  ぼくがどうしたって?
半井  もし、あなたが小枝子に会う気があるなら、わたしが段取りするわ。
古田  小枝子に会う気があるかって? いいや、君の段取りはたくさんだ。帰ってくれ。(背中を
    見せる)
半井  (激しい身振り) そう! あんたがひとに対してそういう態度をとり続けたいんなら、勝手
    にするがいいわ。どうせ、いつまで経っても甘ったれの子供で、ひとの気持ちなんてわから
    ない人なんだから。
古田  ……(無言) ……
半井  さよなら。一人で勝手に悩んでいなさい。

      半井退場。
      古田、歩き始め、ふと机の上のコスモスに気づく。やにわにそれを取りあげ、しばらく
      見つめ、いきなり引きちぎって捨てる。激しく歩きまわる。やがて。立ち止まり。

古田  こんなことはみんな喜劇だ。ありふれた喜劇だ。じつにじつにありふれた喜劇だ。大昔から、
    人々がさんざん書いてきた物語だ。……畜生、そんなありふれた喜劇が、ぼくの心をかき乱す
    のか?

      間

古田  第一幕が始まる。……幕が上がる。たたずむ男。

      幕
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