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須藤みゆき「秋ゆく街で」(民主文学10月号)

 須藤みゆきが期待通りの作品を書いてくれた。やはり今月号はよかった。
 どこまでが事実でどこからがフィクションなのかは知る由もないけれど、形としては日本伝来の私小説である。だが私小説を書いてもこの作家は決して自己におぼれてしまわない。自分自身を客観的に見る冷徹な作家の眼を持っている。
 もともと器用な作家なのだ。いろんな形式で書ける。今回作は暗い話のはずなのだが、暗いと感じさせない。むしろ豊かだと感じる。文学的な豊かさだ。暗いはずのことを書きながら、ところどころでクスリと笑わせる。サービス精神でもあるだろうが、むしろ自分を客観的に見ているので自然とそういう表現が浮かんでくるのだろう。
 今回特に気づいたのは、比喩のうまさである。比喩は下手に使うと文章を安っぽくするので、ぼくは使わない。須藤みゆきは使い方がうまい。表現を豊かにしている。比喩がうまいとそれだけでもプロっぽく見える。
 タイトルはしゃれている。しゃれたタイトルに中身がそぐわないと無惨だが、中身にぴったりしていて違和感がない。
 この主人公はいま48才。30年前の高校卒業当時といえば83年ころになるのだろうか。大学を卒業して就職したころはバブルの絶頂期かも知れない。少女時代は高度成長期だろう。
 そういう時代にあっても父親を早く亡くして、母親がこれというれっきとした職を持たなければ、貧困の中で育たねばならない。昔の農村やあるいは下町の貧困とはまるで意味の異なる貧困が現代都市の中にはあるだろう。それは豊かさの中の貧困で、より精神的苦痛の激しいものだろうと思う。
 そこから抜け出すために勉学に励む姿は、まるでもうひとつ前の時代の人々を思い起こさせるようで、どこか時代の歯車が合ってない気にもさせるが、そういうアナクロニズムのあるのが社会の現実の姿なのだ。
 これが成功物語や、あるいは成長物語になっていない点がよい。主人公は思い通りの人生を実現させたが、問題は何ひとつ解決せずに、いまだに主人公の心に巣食っている。小説の現在のなかで彼女はそのトラウマとたたかっているのだ。このことが作品を過去のこととさせない。
 最後になって彼女はやっと現実と心の間におりあいを見つける。そのしずかさが良い。
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