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藤咲徳治「桜トンネルの春」(民主文学9月号)

 忍耐強く、じっくり読む小説である。文章には一分の隙もない。そのかわり華もないのだ。ストーリーもなく、これといって興味を引く小説的人物も出てこないので、何を期待して読んだらよいか分からず、途中で飽きてくる。自然主義の見本のような文体だ。
 だがそこで投げ出してはいけない。これは外堀から埋めていく小説である。後半以後だんだん盛り上がってくる。最後の数ページ、美和の仮設を訪れるあたりから、ピッチが上がる。末尾に来て、それまで一言も口を利かなかったうつ病の陽平がおもむろに口を開き、最後は自発的に運転席に座る。ここまで来て、あの退屈だった前半の描写がいっぺんに生きてくる。
「だけど、もしそうだとしたら、原発交付金を受けていた市町村の住民は全員が加害者ということになるんじゃない? そんなの嫌よ。わたしらは被害者よ。……絶対に加害者だなんて考えたくない」
 その当否はともかく、これは魂の叫びだ。それを理詰めで否定するわけにはいかないだろう。
 ずっと責罪問題を考え続ける新船氏に投げかけられた課題といえるかもしれない。
 男の作家だが、女性を書くのが巧みだ。案外才能のある人なのかも。
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