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「霧の中の工場」再読

 読み直してみると、なんとなく、しみじみとした味わいがある。
 組合結成の話という選評にひきずられて読んだのが間違いだったかもしれない。
 これは組合の話でもなければ、企業小説でもない。30代半ばのさえない一労働者の周辺に起こった出来事の、いわば一種の風景描写とでも言おうか。
 風俗小説という感じ。
 だが、そのためにいちばん大事なことは何年の出来事かをはっきりさせることだった。風俗の移り変わりは早い。時代の特徴をとらえねば成り立たない。携帯電話が邪魔をするのである。
 かなり田舎の話と思える。そういう地方で労働者にとってマイカーが足としての必需品になってから、もう30年以上が経っているだろう。それ以前の時代に携帯電話などない。これが都会の話なら、マイカーがなくてもよい。だが、都会には見えない。実際、利根川河口域、銚子あたりの話である。
 30年以上前の風俗を描いた小説としてなら、(携帯さえ出てこなければ)違和感がない。
 文章はあまり上手ともいえない。特に書き出しがぎこちない。素人は書き出しに凝る傾向がある。凝るほどに駄目になる。素直に、さりげなく書きだすのがいちばんよい。
 ただ、下手ともいえない。かなり熟達した書きぶりである。変に力まず、淡々とできごとを書いていく。じっくり読んでみると、妙に味がある。
 人物の造形と描写という点でも、最後に出てくるやくざまがいの老人と、正子とは見事である。この二人はとても生きている。社長は最初から最後まで影が薄いが、薄いなりに最も強く読者の同情を買う。
 貧しい少年というのが出てくるが、20才近い男を少年はないだろう。この人物がなんのために出てきたのだろうと思ったが、それも風景描写のひとつなら納得できないでもない。個性不足ではあったが。
 要するにそれもこれも風景なのだ。そして30半ばのさえない男が、いろんな人物、いろんな出来事に出会って、少し大人になる。そういうふうに読めば、しみじみと味わえる小説である。
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