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谷川俊太郎選「茨木のり子詩集」岩波文庫 2014年

 駄目なことの一切を
 時代のせいにはするな
 わずかに光る尊厳の放棄

 自分の感受性くらい
 自分で守れ
 ばかものよ

 この詩のこの部分を目にした人は多いだろう。いろんなところで引用されている。記憶に残る詩だ。同時に、ちょっと生意気な詩だな、と感じなかっただろうか。ところが詩の全体を読むと、こうだ。

自分の感受性くらい
 ばさばさに乾いてゆく心を
 ひとのせいにはするな
 みずから水やりを怠っておいて

 気難かしくなってきたのを
 友人のせいにはするな
 しなやかさを失ったのはどちらなのか

 苛立つのを
 近親のせいにはするな
 なにもかも下手だったのはわたくし

 初心消えかかるのを
 暮しのせいにはするな
 そもそもが ひよわな志にすぎなかった

 駄目なことの一切を
 時代のせいにはするな
 わずかに光る尊厳の放棄

 自分の感受性くらい
 自分で守れ
 ばかものよ

 どうだろう。人を叱っているのではなかった。自分を叱っている。自分に対して、ばかものよ、と言っているのだ。
 だから、(そのことを知って読むと)、だから余計に、こちらの心に突き刺さる。
 茨木のり子のたぶん膨大な量にのぼるだろう詩のなかから、谷川俊太郎が選び出した詩集である。
 もう一篇、だれでも目にしたことのある詩。

わたしが 一番きれいだったとき
 わたしが一番きれいだったとき
 街々はがらがら崩れていって
 とんでもないところから
 青空なんかが見えたりした

 わたしが一番きれいだったとき
 まわりの人達が沢山死んだ
 工場で 海で 名もない島で
 わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった

 わたしが一番きれいだったとき
 だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
 男たちは挙手の礼しか知らなくて
 きれいな眼差だけを残し皆発っていった

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの頭はからっぽで
 わたしの心はかたくなで
 手足ばかりが栗色に光った

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしの国は戦争で負けた
 そんな馬鹿なことってあるものか
 ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

 わたしが一番きれいだったとき
 ラジオからはジャズが溢れた
 禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
 わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

 わたしが一番きれいだったとき
 わたしはとてもふしあわせ
 わたしはとてもとんちんかん
 わたしはめっぽうさびしかった

 だから決めた できれば長生きすることに
 年とってから凄く美しい絵を描いた
 フランスのルオー爺さんのように
               ね

 この詩については谷川俊太郎が、遠慮の要らない関係の茨木のり子に次のように批評したそうだ。5連、6連と終連は要らないと。茨木は不満そうな顔をした。
 どちらの言いたいこともわかる。詩の完成度から言えば、明らかに谷川が正しい。5、6と終連とは余計だ。特に終連は絶対に要らない。だが、茨木にとっては、この詩を客観的に見ることはできない。ここに居るのは茨木のり子という個人であり、その主体の訴えなのだから、すべての連が必要なのだ。
 久しぶりに詩集を手にした。若いころはランボーとかブレヒトとかに熱中した。谷川俊太郎もその少年時代の詩は素晴らしかった。そののち詩から遠ざかった。
 茨木のり子のここに引用した2篇の断片をしばしば目にするので、たしか詩集を持っていたと思って探した。そういう記憶があったのだが、探したが出てこなかった。それで買ってきた。たぶん、初めて読むのだ。
 読んで、まいってしまった。こんな女性がいたのだ。それも知らずに生きてこれたなんてありえない。ほとんど彼女に恋をしてしまいそうだ。
 彼女の詩には感傷がない。自己憐憫がない。すっくと立っている。それでいて、すべてを注意深く視ている。奥深く視ている。借り物がない。すべてが彼女のものだ。
「りゅうりぇんれんの物語」など、びっくりした。38ページも続くのである。それでいて少しも退屈させない。しまいまで息もつかせず読まされてしまう。
 早くに逝った夫への、詩人の死後出版されたラブレター的な詩はまた違った味わいでいい。違うといっても、やはり茨木のり子だ。言葉だけではない、本物のラブレターである。てれくさいからと、生前は公開しなかったそうだ。
 全体に、ユーモアの感覚が豊かだ。なにを唄ってもユーモアを忘れない。決して切迫しない。余裕がある。
 そういうものをひとつ。

大学を出た奥さん
 大学を出たお嬢さん
 田舎の旧家にお嫁に行った
 長男坊があまりすてきで
 留学試験はついにあきらめ
           ピイピイ

 大学を出た奥さん
 智識はぴかぴかのステンレス
 赤ん坊のおしめ取り替えながら
 ジュネを語る 塩の小壺に学名を貼る
                ピイピイ

 大学を出たあねさま
 お正月には泣きべそをかく
 村中総出でワッと来られ 朱塗りのお膳だ
 とっくりだ お燗だ サカナだ
             ピイピイ

 大学を出たかかさま
 麦畑のなかを自転車で行く
 だいぶ貫禄ついたのう
 村会議員にどうだろうか 悪くないぞ
                ピイピイ
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