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さがす

 宿に荷物を預けて昼食を済ませた。さて、どうするか。十日間の日程で宿は三箇所とっているが、行動予定を立ててなかった。コーヒーを飲みながら、妻と作戦を練る。ここは堀川下長者町、今出川に近い。宿を出て、とりあえず歩き始める。今出川でバスに乗り、同志社と御所の間を通って出町に出た。
 バスを降りた。街の様子が変わったわけではないが、十字路の商店は入れ替わったと見え、五十年前の記憶とは重ならない。でも、それを期待したわけでもない。
 出町に枡形商店街なるものが昔からあるのだと最近知った。あれだけ頻繁に往来した場所なのに、その商店街をまったく知らないという迂闊さから、興味が芽生えた。最初の午後の半日をそこから始めてもよいだろう。
 その商店街はすぐ見つかった。十字路から少し上がったところで、知らなければ行かない場所だ。近隣住民相手の素朴なマーケット。それなりに賑わっている。街なかに小さな映画館が生き残っていた。そのレトロなたたずまいもあって、どうやら妻も満足した。
 鴨川を渡る。葵橋を渡るつもりが、まちがえて出町橋を渡った。
「知ったかぶりをして」と妻が早速責めたてる。無駄に歩かされると機嫌が悪い。
 家庭裁判所の前を通って糺の森に入る。それは、下鴨神社への参道だが、参道を外れて森に分け入ると小川沿いに、何度も通った小径がある。ところが、あるはずなのに遮断されていて、小径の森へ入っていけない。
「通行禁止になったようだよ」
 歩く横をバスが通って行く。なんか変だなと思いながら神社に近づくころ、道をまちがえたのだとやっと気づいた。並行している参道を人々が歩いてくる。その横手の茂みにどうやら小径もありそうだ。でも、いまから引き返すにはかなりの距離を来てしまった。
「また知ったかぶりをしてまちがえたな」
「小径は、次の五十年後、もう一度来たときに、歩くことにしよう」
 形ばかりお参りし、神社の横手から通りへ抜ける。
「ここどこ?」
「下鴨通りだ」
「じゃ、このへんなの?」
「いや、洛北高校下ル西入ルだからね。まだずっと上だ」
 北大路が見えてきた。あの角が洛北高校だ。
 ここらに電停があって、こっちにバス停、「先に来たほうへ乗ろう思ってな」とつぶやいて佇んでいたのは、着物姿の大伯母だ。ここを根城に京都の街をさまよい歩いた日々、ぼくはいったい何を探していたんだろう。
「ここから入ってみよう」
 西に入る。せまい道だ。
「こんなにせまかった?」
「せまいね」
 せまくて、多少斜めで、多少入り組んでいる。でも家々は比較的新しい。どの家も建て替えたようだ。その家と家の間に昔ながらの格子戸の家が一軒、ぽつんと取り残されていた。ぼくは立ちどまった。崩れる寸前のような二階家。誰も住んではいないだろう。
「ここなの?」
 隣家との間が少し離れていて、壊れた扉がぶらさがっている。その隙間がぼくを誘う。扉をまたいで、ずんずん入っていった。するとそこは新しく建てられた家でふさがっていた。むかし、そこに広い空地があった。その草むらに、プレハブがひとつ建っていた。
「そうよ。ここよ」と妻が言った。「覚えてる? この入口には柵があって入れなかったの。だからこっちから小石を投げたら、それがプレハブに当たってあなたが出て来た。覚えてる?」
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コメント
87:拍手 by 石崎徹 on 2019/10/18 at 10:18:30 (コメント編集)

ありがとう。

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