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「零地帯」第2号 その5

紫野咲 葦女「秀男の宝物」

 中学生の男の子が東京から名古屋まで自転車で旅する話である。箱根がいちばんの難所らしい。登りは押していく。頂上へ来てあとは楽だぞと思った途端パンクして、今度は抑えながら下りなければならない。たいへん苦労して、人の情けに助けられながら敢行する。
 こういう話は行路の具体的な描写が命だが、ペンネームからいって作者は女性だろうと思うのに、隅々までペンが行き届いている。息子さんの経験を聞き書きしたのだろうか。

木沼駿一郎「悪夢」

「悪夢」の二番目の話「携帯電話」が面白かった。最後から3行目「夢だったのだ」は要らなかった。夢なのか何なのかわからないままに終わらせたほうがよかった。木沼さんの作品には珍しく非常にまとまりがいい。携帯電話について妙な理屈をこねまわす、得体のしれない男、エンジニアか、哲学者かと思えばマジシャンのようでもあり、悪魔っぽくもある。この人物の理屈が決して俗に流れていない、けっこう聞かせるし、めちゃくちゃなんだが存在感がある。切れ味の鋭い好短編である。

 木沼ワールドは大都会の片隅に生きる勤め人たちのなんてことない生活の描写が主体で、そこに魅力があるのだが、この作品は異色である。こういうものも書けるのかと感心した。
 しかし、どちらにせよ、木沼さんは短編で勝負すべきだと思う。面白い話を豊富に持っている。ところがそれを脈絡なくつないで中編にしてしまう。ひとつひとつ独立の短編として書くべきだ。すぐれた短編1本には長編1本と対等な価値がある。

坂井実三「二つの小さな物語」

 よどみない文章、書きなれている。過去にどういうものを書いてきた作家か知らないが、老いて、何を書いてよいかわからなくなった。それをそのまま正直に書いている。途中まで面白かったのだが、最後痴漢冤罪の話になってしまって、ありふれた話なので、興を欠いた。
 主人公のキャラが定まらないことを嘆いている。嘆いている人物は三人称で、主人公は一人称なのだ。これは工夫なのだろうが、成功したとは言い難い。登場人物のキャラをどう作り上げていくかというのは書くものにとっては付いてまわる問題である。もっとこの問題を突き詰めてみてほしかった。
 若い時は誰しも「これを書かなきゃ生きていけない」という切羽詰まった気持でものを書く。ところが60になり70になり、可もなく、不可はたくさんあったが、結局なんてことなく生きてこれた。「これを書かなきゃ生きていけない」なんていうテーマはもうない。
 で? どうするのだ?

 ぼくも作者と同じ気持ちなので、この作品はよくわかります。

 残りの作品にもそれぞれ興味を引く点はありましたが、今回は割愛させてください。
 以上、「零地帯」第2号評、終わりです。
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