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「零地帯」第2号 その3

橘あおい「宮本百合子とフローレンス・ナイチンゲール」

 これも興味深く読んだ。ナイチンゲールについては何の知識も持っていなかったから。
 著者は戦前の修身教科書がナイチンゲールをどう描いたかから語り始める。幼少期のナイチンゲールが、足を折って安楽死させられそうになっている犬を見て、牧師をつれてきて安楽死を止めさせ、副木を当てて応急措置したという話を、修身教科書は、ナイチンゲールの心の優しさとして取り上げ、一方で天皇のために死ねという教育勅語を暗唱させながら、「生き物を憐れめ」とぬけぬけと書いている、と橘さんは批判し、それに対して宮本百合子が、検閲の厳しい時代に同じ話をどう書いたかを紹介している。
 百合子は、「犬をかわいそうと思うのは子供なら当たり前で、特別なことではない。この話が実話だとして面白いのはむしろ次のことである。単にかわいそうと思っただけではなく、安楽死を止めさせるために牧師をつれてきたこと。副木を当てて手当てしたこと。つまり彼女の実際的な行動力と判断力をこそ評価すべきである」として、そういった素質は上流階級の生まれという恵まれた育ちのなかで育まれたものであろう、というところまで見ている。
 著者はこれをすぐれた観点として記しているが、ぼくもそう思う。
 少し先走ったが、橘さんはまず看護婦制度の歴史から見ていく。基本的に看護婦とは赤十字看護婦として組織される従軍看護婦である。召集令状が来れば戦地に赴かねばならない。元は低い身分の女性しかならなかった看護婦にナイチンゲールは自ら志願し、クリミア戦争で活躍した。このことが看護婦の地位を高めるとともに、犠牲的精神が押し付けられ、軍隊制度の中に組み込まれていくもとともなった。
 次いで著者はリットン・ストレイチーのナイチンゲール評伝を取り上げる。ストレイチーはナイチンゲールに関する世評を頭から否定したらしいのだが、残念ながら、この引用部分が、校正ミスなのか、単語や文章が抜け落ちているらしく、意味不明である。
 この意味不明部分におそらく関連して、著者が最後に取り上げるのは、10年前にやっと明らかになったという、クリミア戦争時にナイチンゲールが赴任したトルコのスクタリ病院での現実である。
 じつは野ざらしにされた負傷兵や、他の病院に送られた負傷兵よりも、スクタリ病院の負傷兵のほうが死亡率が高かった、という調査結果が握りつぶされていた。ナイチンゲール当人はこの調査結果に衝撃を受けてその原因が病院の衛生環境にあったことを突き止め公表を望んだが、スクタリの神話を守りたい人々によって阻止されたのだという。
 いずれにせよ、ナイチンゲールはその後も病原菌とのたたかいよりも、公衆衛生を重視する方向で貢献した。それをどう評価するかという点では、百合子による評伝に対して著者は別の考えを持っているようである。
 後半、ナイチンゲールから離れてしまっているのが残念である。もともとナイチンゲールと宮本百合子を並べて書くのが著者の目論見だったようだが、むしろナイチンゲールに絞って、もう少し整理して書いたら、もっとよかったと思う。
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