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草薙秀一「ランドロワ・イデアルから遠く離れて」

「民主文学」18年2月号で以下の4氏が座談している。
 岩渕剛、乙部宗徳、田島一、宮本阿伎。
 少し長いのだが、なかなか面白い。
 乙部宗徳が、最近の民主文学の批評が作品紹介に偏っていて、突っ込みが足りないと問題提起した。それを受けて田島一が、――昔こういうことを言った方がいたでしょう。「みんなでいっしょに肩をたたいて仲間内で励まし合いながら、手をつないで沈んでいく、それではいけないのではないか」と――
 こういう話が出てくるのは座談も終わり近くになってなのだが、そこまでの仲間内の作品評で、おのおの、すでにかなり厳しい指摘をしている。

 いろんな作品に触れているのだが、読んでいない作品も多いので、先日から気になっている草薙秀一「ランドロワ・イデアルから遠く離れて」だけとりあげる。この作品を論じるために高野悦子に関して多少の文献をあたるつもりでいたが、なかなか掛かれないので、この座談で出てきた範囲に限って少しだけ書く。
 なお、座談のなかで、この時代を知っている人がこの時代をもっと書かねばならない、と言われていることが胸に残った。(ぼくもその時代なので)。

 田島一が疑問を提出したのは、――倉田は(高野悦子は)「権力に、殺された。私はそう思っています」――と、50年後の時点で主人公が若い女性に対して語る場面である。これは文学としては違うのではないか、と田島は言っている。
 結論から言うと同感だ。というか、それこそぼくが問題にしたかった箇所なのだ。

 とはいえ、ぼくはこの草薙作品をかなり好意的に読んだのである。ひとつには懐かしさもあった。69年のまさにその春、その広小路校舎で、ぼくは夜間学生だった。ランドロワ・イデアルはシャン・クレールで、それはぼくも彼女と通ったジャズ喫茶だ。
 その上にこの主人公の雰囲気に共感するところがあった。ワンダーフォーゲル部の高野悦子(作中では倉田悦子)の先輩である(作者とおぼしき)主人公は、いわばノンポリで、政治活動に熱心ではない。しかしどちらかといえば民青に同情的で、全共闘には批判的である。普段おとなしい悦子は、酒が入ると大胆になって、主人公に絡んでくる。大学がどういう事態になっているのか説明を求める。
 だが主人公にも明確な答えはない。ただ暴力学生を支持することはできないというだけである。明確な答えを得られないままに、悦子は次第に民青に対して批判的になっていき、全共闘に惹かれていく。
 悦子から問い詰められて戸惑う主人公にリアリティがある。当時誰もが政治的だったわけではない。大部分はふつうの学生だったのだ。誰もが民青でなければ全共闘だったわけではない。誰もがそういうセクト争いに関心を持っていたわけではない。先輩と言ってもまだ21か2の若者である。答えられないのが普通なのだ。
 その普通に対して苛立ちを募らせていく悦子。その若い焦燥感。この少しのほほんとした先輩と、突つけば折れてしまいそうに神経をとがらせてしまった少女との対比。それが読む側から言えば、痛いようなものとして感じられてくる。
 こういう場面をぼくは共感を持って読んだ。
 また最後のところで、主人公は述懐する。
 自分は大阪の下町に生まれ育ち、そういう下町的なものになじめないで反発していた。ところがときが経って故郷に帰ってみると、近所の人たちから、よく近隣になじんだ如才ない子供だったと言われた。結局自分では気づかずに、商店街のそういう雰囲気のなかで知らず知らず培われた人間関係的なものが自分の中にあって、そういうものが自分の生き方をある部分で律していたのではないか、と。
 こういうところも、さりげないところではあるが、人生というものを考える上でのヒントを提供している。

 そういう共感を持って読みながら、「悦子は権力に殺された」というセリフのあまりに紋切り型なのが、ぼくのこの作品への評価をいっぺんに下げてしまった。
 青春の苦悩の中で自殺する人は多い。その自殺の理由はさまざまで、また自殺するのは青年だけではないとしても、青春の苦悩には一定の普遍性がある。それがあるから、そして彼女の日記がそれを表現していたから、いまもまた「二十歳の原点」はブームを作り出しつつある。
 まだ「二十歳の原点」一冊を読んだだけだが、その限りで、悦子にとって政治問題はそんなに大きな比重ではない。彼女は政治に悩んで自殺したわけではない。権力に殺されたのではない。
 高野悦子はもっとほかの場所で語られねばならない。
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