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「樹宴」12号感想

「樹宴」も「まがね」もまだほとんど誰にも送付できていないが、「樹宴」追加入手の見込みがついたので、そのうち送ります。「まがね」はどうせエッセーだけだし、今回10数部しか受け取っていないので、あまり方々へは送りません。
 ということで、まだ送付できていないけれど、一応感想を。

「樹宴」12号

 守屋陀舟「遺書」

 今回の「樹宴」ではこの人の作品が際立っている。いつも良いものを書く作家だが、前号、前々号の戦争ものは、一般読者には少し難解だったかもしれない。
 今回はわかりやすい話である。一応謎解きになっているので、ストーリーの詳述は控える。
 自分の幼いときに死んだ母親の死の真相を知りたがった女性が、恋人と二人で方々を訪ね歩き、次第に謎が解きあかされていく。
 行く先々で、ひとつ謎が解けたかと思えばさらに謎が深まる、という展開で読者を引っ張っていく手法がうまい。
 文章表現力、とりわけ自然描写の秀逸さはいつもながらで、そこに日本的情趣が漂うのも、この人ならではだ。
 でありながら、今回は登場人物を軽妙に描いた。若い男女のやりとりがさわやかだ。これは今までの守屋作品にはなかったもののように思う。深い情景描写のなかに軽い人物表現がぽっかり浮かんでいる感じが、そぐわないようでもありながら面白い。
 読み始めたらやめられない作品。
 ただ、ラストはどうだろう。どこかで読んだような結末なのが気になる。もうひとひねり欲しかった。
 90枚くらいの作品。

 木沼駿一郎「誰か?(笹島の奇妙なアルバイト最終回)」

「樹宴」9号から4回連載の最終回、合計300枚ほどの作品である。
 この人の作品の特徴は、いろんなエピソードが無造作に並べられてその関連性がわかりにくいのだが、それはもう欠点というよりも個性と化している。
「笹島の奇妙なアルバイト」として始まった9号の作品は、この作家には珍しくまとまりがよくて感心したが、号を追うごとにこの人一流の個性が復活したようである。
 ひとつひとつのエピソードはいつもたいへん面白い。人物もよく描けていて、書いている内容も独特である。比較的下積みの人々の人間模様が描けているように思う。
 ひとつひとつ独立の短編小説として味のあるものに仕上がっていると思うのだが、どういうわけか作者はそれを雑然と並べて長編に仕立てたがる。
 見ようによっては井上光晴の小説に似ている。光晴の長編は二つ読んだだけだが、たまたまなのか、二つとも、エピソードの寄せ集めで、一貫した物語世界を読みとることは難しかった。おそらく光晴の意図はその混とんとした世界を提示することそのことだったのだろうが、読者にとってはかなり難解だった。
 そういう作品もあるわけで、木沼作品も読みとる側がどう読みとるかということなのかもしれない。
 推理小説なので、1回2回を読んだ頃は解読に努めたが、3回あたりから行き着く先が見えなくなって、4回でとうとうこんぐらかった蜘蛛の巣の真ん中に置き去りにされてしまった。そういう読後感を楽しむ小説なのかもしれない。
 作品からうかがうことのできるのは、かなりいろんな体験をし、いろんな人を見てきた、そしてまたいろんな本を読んできた、そういう人の作品だということである。
 こんぐらかった蜘蛛の巣にも、作者はそれなりに道筋をつけているようなので、もう一度読み直してジグソーパズルを完成しようと試みるのも面白いかもしれない。

 大丘 忍「誤診」

 医学の知識なしには書けない小説。専門知識を駆使し、また医学現場にあるかもしれぬと思わせる心理をえぐり出している。
 でも大衆小説のタッチなので、読みやすく、わかりやすい。そのためかえって誤解が生じるかもしれない。医者の心理をかなり誇張して書いており、振り回される患者の心理も説明不足のところがあって、深刻な問題が軽く扱われすぎていると感じるかもしれない。
 こういう作品は読者の側の取りよう次第だろう。ぼくとしては、戯画化されてはいるが決してないとは言えない医学世界の一面の傾向の暴露として肯定的に受け取った。
 医学も競争の世界であり、決してきれいごとばかりではない。(というのはわかりきったことではあるが)

 S・T訳  トルーマン・カポーティ「シェイプ・オブ・シングス」

 バージニアあたりを走っている汽車の中。1944年の作品。食堂車のテーブルにたまたま同席した見知らぬどうしの会話。若い海兵隊員の夫婦のテーブルに少し年上の女が相席になり、そのあと伍長が来て座る。この伍長は戦争帰りだ。
 非常に短い作品で、正直言って話は分かりにくい。説明なしにその場で起こったことと会話だけを書いている。そういう原作なのだろう。
 伍長がどうやら神経をやられているようで、非常に苦しそうにする。女が手助けしようとするのだが、伍長がごちょごちょ言い出して、気分を害した女は料理に手を付けずに金を払って立ち上がる。伍長が「食えよ、こんちくしょう」と言って終わりである。
 戦争が兵士の心に与える傷を書いているのだろう。
 原作者の書きたかったことは伝わってくるのだが、こういう短い作品の翻訳は大変難しいと思う。おそらく行間を読ませるような作品で、それを異なる言語に置き換えることには困難があるだろう。
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