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豆塚エリ「いつだって溺れるのは」(太宰治賞候補 234枚 23歳)

 今日の新聞で16歳の少年がすばる新人賞を取ったと報道されていた。文章力、表現力、構想力といったものは十代で十分身に着けることはできる。あとはたぶん人生経験だけだ。それも若い人は若いなりにあって、齢をとると失われてしまう感性があるから、十代でなければ書けないものもある。
 ぼくが十代の終わりで早くも行き詰まってしまったのは、あまりに孤独な少年時代で、人間関係に乏しすぎたのが一因だ。人間を書けなかった。いま子供たちを見ていると、子供ながらに立派に社会生活を経験している。なるほどあれなら書けるなと思うが、逆にああでは書く動機がないかもしれない。
 若くして作家として出てくる人は人それぞれだとは思うが、読書量だけでは決まらない。

 さて23歳、最終候補になったときはまだ22歳である。
 じつは最終候補四作のなかで一番ひっかからずに読んだ。文章も、人物も、ストーリーもなめらかで読みやすかった。そのぶん、通俗的だとは言える。ただ、ほんとうに通俗的なだけの小説というのは決して読みやすくない。嫌気がさすからだ。この作品が読者を引き付けるのは、主人公の設定にある。
 主人公、葉子。17歳で、頚髄損傷、下半身の感覚を失い、以後車椅子生活。リハビリを担当した理学療法士の修司(10歳年上)と結婚してすでに数年、いま24歳である。
 ストーリーの展開に沿って、頚髄損傷者として被る通常とは異なる生活のあれこれがひとつひとつ具体的に描写されていく。ところがそこにわざとらしさがない。自然にストーリーに溶け込んで、ごく当たり前のこととしてさりげなく描かれる。豊かなリアリティがある。作者が自分の体験を書いているのではないかと思わせるところがある。22歳で、体験ではなしに取材で書いたとすれば、すごい才能である(もちろん実際の体験者からすれば、おかしなところもあるのだろうが)。それはつまり書いてある内容よりも、その書き方があまりにも自然なのでそう思ってしまうのだ。
 途中まではこの作品がいちばんいいとも思った。
 読み進めると、葉子の母親はホステスで、父親は地元のお金持ちだ。葉子は婚外子なのだ。このあたりからちょっと設定を複雑にしすぎじゃないのという疑問がわいてくる。さらに読んでいくと中学からの親友が出てきて、これは中学を不登校で過ごし、高校で立ち直って大学を出ていまは中学教師である。脇役までが複雑なのだ。そして最後にダメ出しのように、高村という50代の元中学教師が登場する。葉子は結局この男と恋仲になって修司と別れるのだが、これがじつは教え子と恋仲になって妊娠した彼女を自殺に追い込んだか殺すかし、妻をも殺そうとして失敗していま植物状態の妻を看護する身である、という噂を持つ男である。ところがこの噂の真相は、女子中学生を妊娠させたのが彼女の兄だったとか……。
 つまり作者はバラエティ番組から拾ってきたようなありふれたパターンをあれもこれもと詰め込んでしまったのだ。こうなってしまうと234枚という短さではどれもこれも時事ニュースでしかない。物語になりえないのである。
 結局何を書きたかったのかわからない作品になってしまった。

 この作品でも思うのは、一人称で書くべきだったということだ。22歳の作者には50歳の男を書くのは荷が勝ちすぎている。三人称で書いたので、22歳の眼では見ることのできない男の全体が見えているかのような書き方になった。22歳の主観でしかないものがまるで男の客観であるかのように書かれてしまった。
 その結果、高村は少女漫画に登場する大人のような風貌になった。
 見えてないものを背伸びして見えているかのように書いてはダメだ。作者は葉子の目に見えるものだけを書くべきだったのだ。そして見えないところがたくさんあるのだということをそれとなく匂わすべきだった。高村は大人の謎を秘めた人物にしておくべきだった。全部わかっているかのように書いたので、物語が逆に単純になり、漫画的になった。作者の人間観が薄っぺらくなってしまった。
 しかし、もったいない作品なのだ。十分に構想力や表現力を持った作者である。少し欲張りすぎた。

 葉子と高村が接近するきっかけが小川洋子の小説だったというところを審査員が批判していたが、同感する。かなりしつこくいつまでも小川洋子が出てきて辟易する。この回から小川洋子は審査員を抜けたが、それまでは審査員だったので、よけいに要らぬ誤解を招きかねない。それを抜きにしても、もっと古典的な作家にした方がよかっただろう。
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