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2012年08月のエントリー一覧

  • 祈り

     蝉がしきりに鳴く。高く枝を拡げた幾本もの樹木の、重なりあった葉の揺れるにつれて、陽の光はきらめきながら降ってきた。 「怖かったな」 父親と並んでベンチに腰かけた女の子がいった。女の子は十くらいで、眼鏡をかけていた。よく肥えておっとりした丸い頬をし、白い帽子と白いスカートを身につけている。彼女がひとつかみ、とうもろこしを放ると、鳩たちが枝々からわっと舞い降りた。 「怖かったかい」 「うん、怖かった...

  • 盗 難 2

     十六時四十五分で定時は終わる。まにあうように仕事を終わらせて詰所に戻る。何人かは残業しているが、出作業組はみな帰った。暑いさかりに高熱作業をしては、あとが続かない。それにいまから段取りしても中途半端なだけだ。結局しんどい仕事をするものほど、給料が安いことになってしまう。 津川はこれからまだ作業日報をまとめたり、安全関係の書類をまとめるので時間を食う。五時をだいぶまわってハウス内にある事務室に戻っ...

  • 盗 難 1

     六月も半ばを過ぎたが、雨は降らず、蒸し暑い日が続いていた。午後からは脱ガスの地金切りなので、津川は自動販売機で四人分のポカリスェットを用意した。班長というのは、安月給で出費ばかり多い職責だ。それでも部下を熱中症で倒れさせるわけにはいかない。なりたくてなった班長ではないが、順番だから仕方がない。まあ、作業長にならなかっただけよかったんだろう。作業長の御厨は胃癌になって胃を全摘出してしまった。やっと...

  • ノロ鍋始末記 第六章

     火曜日の朝、いつものミーティングが終わりかけていた。直木は立ち上がった。「言いたいことがあります」声を張り上げた。 みなの目がいっせいに直木に注目した。尻を浮かしかけていた何人かがもとどおり坐った。大江と安部も直木を見た。「ここに池山課長名の命令書のコピーがあります」直木は書類を掲げた。「これによると、先週の月曜日の時点で、渋井さんはノロ鍋を引き払い、このハウスを職場とすることとなっています。し...

  • ノロ鍋始末記 第五章

     最初の土日は休み、次の週から毎日二時間残業して、柴田さんはだいぶ切り進み、直木も手伝ったり、見よう見まねで切ったり、鍋に入って溶接したりした。その間渋井は朝のミーティングに顔を出すようにはなったが、大江から書類整理の仕事をもらうと、相変わらず詰所にやってきて閉じこもる。月曜日の期限はすぎ、一週間経ったが、渋井は移動する様子がない。最初の一基の納期がせまったので、直木たちは土日も出てきて定時まで働...

  • ノロ鍋始末記 第四章

     翌朝のミーティングで大江は別にこの件には触れずに、いつもどおり、災害速報や、安全に関する若干の注意事項を述べただけで終わった。こんなミーティングがなんの役に立つんだろうと直木は思うが、氷川班や、ほかの班もいて、それぞれ仕事の内容が違うので、抽象的なミーティングにならざるをえないのだろう。出がけに安部係長が、よろしく頼むぞ、と柴田さんと直木にむかっていった。大江が現場までついて来た。せまい詰所に十...

  • ノロ鍋始末記 第三章

     道みち、直木は例の件か、ときいた。そうだ、と柴田さんは答えた。「ノロ鍋って、なんですか」「ノロを受ける鍋や」「それがよくわからない」「転炉でも造塊でも連鋳でも、湯の出初めと最後は必ずノロちゅう不純物が出よる。これを受ける鍋や。おとといコキ鍋に落ちた湯を切ったやろ。あれは転炉のノロを受けて鉄道が引っぱっていく。造塊と連鋳と、それに原料はノロ鍋に受けて、物流が専用の運搬車で運ぶのや」「どんな鍋ですか...

  • ノロ鍋始末記 第二章

     朝が来た。 直木は意外と元気な自分を感じたが、柴田さんはさすがにくたびれたらしく、口数が減って、ぼんやりした眼をしている。田所は最初から少しも変わっていない。二十四時間働いた直木たちと違って、もともと夜勤勤務だ。彼らはずっと昼夜十二時間の二交代制で働いている。 ほとんど、田所と柴田さんが交代で切ったが、直木もときどき切った。はたで見るのと違って、自分でやってみると、まずその熱さに尻込みしたくなる...

  • ノロ鍋始末記 第一章

    「なお、何しとっかあ」 柴田さんがどなっている。直木は酸素ホースを引っぱっていた。直径五センチ、太く肉厚の酸素ホースは、コンクリートの地面にまるで吸い付いたように黒々と横たわり、持ち上げるだけでも重く、引っぱっても動かない。「なおォ、直木ィ、届かんでよォ、引っぱれやァ」「引っぱってまあす。ちょっと待ってくださあい」 直木は、いったんホースを投げ捨て、尻ポケットから懐中電灯を取り出して、ホースを伝っ...

  • アトム論考

       1  ドラえもん アトムのことを書く。でも話はドラえもんから始まるのだ。 二十五年前、ドラえもんに出会って、衝撃を受けた。それよりもう少し前、ぼくらは、大学生が漫画を読んでいると言われた最初の世代だった。同じ藤子不二夫のオバQが話題になったのを知っていたが、ぼく自身は読んだことがなかった。白土三平しか読まなかったから。 タイトルはドラえもんだが、主人公はのび太という、さえない男の子である。ス...

  • ゆで卵について

     ゆで卵について書こうと思ったのには、これといった理由はない。コロンブスのむこうを張るつもりでもなければ、レイモンド・チャンドラーを語るのでもない。もちろん卵料理の薀蓄を傾けるわけじゃない。ぼくは料理のことはからきし知らないし、いつぞやテレビでゆで卵の剥きかたについて解説が始まったときには、馬鹿らしいと思って席を離れたくらいなのだ。だがじきに馬鹿にしたことを後悔することになった。ゆで卵を剥くのは案...

  • 三郎のふしぎな日々

     三郎は、空想することが好きな少年です。春が来たので、みんなは原っぱで野球をして、ボールを投げたり、大声で叫んだり、走ったり、笑ったりしています。でも、三郎は、ひとりぽつんと、すみっこのブロック塀にもたれて、うずくまっています。 ときたま、ボールが近くまで転がってくると、三郎は立っていって、拾いあげ、放ってやります。そんなおりに、ひろしや、ほかの少年たちが、 「三郎も、いっしょに、やらないか」 と...

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