・失われた夜のために (序) ・失われた夜のために (その1) ・失われた夜のために (その2) ・失われた夜のために (その3) ・失われた夜のために (その4) ・失われた夜のために (参考系譜) ・失われた夜のために (その5) ・失われた夜のために (その6) ・失われた夜のために (その7) ・失われた夜のために (その8) ・失われた夜のために (その9) ・コスモス 8 ・コスモス 7 ・コスモス 6 ・コスモス 5 ・コスモス 4 ・コスモス 3 ・コスモス 2 ・コスモス 1 ・朝 3 ・朝 2 ・朝 1 ・盗 難 2 ・盗 難 1 ・ノロ鍋始末記 第六章 ・ノロ鍋始末記 第五章 ・ノロ鍋始末記 第四章 ・ノロ鍋始末記 第三章 ・ノロ鍋始末記 第二章 ・ノロ鍋始末記 第一章

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カテゴリ:中編小説のエントリー一覧

  • 失われた夜のために (序)

     失われた夜のために       序 二〇〇九年の秋に、定年を三年延長して年金生活に入ると、永年働いた土地を離れて、両親の遺してくれた住まいに引越した。永年働いたとはいえ決して馴染んだとは言い難い土地だったので、そこを離れることに未練はなかった。引越した町も生地ではなく、その家に住んだこともなかったが、ともあれ小学校の途中から高校卒業までを、数回転居しながら過した町で、半世紀の不在が町の姿を激変さ...

  • 失われた夜のために (その1)

     失われた夜のために      一 僕は手をとめる。なぜうまくいかないのか、よくわからない。うまくいかないというよりも、どうやら限界なのではないか。登場人物が百名を超えてから、もうこなしきれなくなっている。民部少輔とか図書頭とか左衛門佐とか筑前守とか、そういう馬鹿々々しい幾十もの小官職が、僕の頭に悪腫のように堆積している。そいつらはこびりつき、しこりのようになり、僕は眼をつむる、すると、後頭部から...

  • 失われた夜のために (その2)

          二 鉄製のむきだしの階段を上がって、薄暗い廊下を通り、手探りで錠前に鍵をさしこむ。中はほとんど真暗で、外と同じように冷え冷えしている。畳の上にあるものを蹴飛ばしてしまわないように用心しながら、そろそろと、部屋の中央へ進み、足が炬燵布団の端を踏むと、見当をつけて、その上のあたりへ、右手を左右させる。手が紐をつかみ、引張り、灯りがつく。炬燵のコンセントを入れ、同時にポットのコンセントも入れ...

  • 失われた夜のために (その3)

          三 それからまた、僕は一生懸命働いた。僕が一生懸命働くということは、今では、誰でも認めただろう。もちろん、以前はそうじゃなかった。以前は仕事の間じゅう上の空で、しばしば僕はむしろ目覚めてなかったし、定時のサイレンが鳴るとはじめて、僕は僕がここにいるのを見いだすのだった。そして、それから、言葉や笑いや表情や身ぶりをとりもどして、街から街へと駈けずりまわる、僕の夜が始まるのだった。そのころ...

  • 失われた夜のために (その4)

          四 その次の日曜日に、岡が訪ねて来た。彼は朝あまりに早く来たので、僕は昨夜からまだ眠っていなかった。雨戸を閉め切った部屋の中で、僕は六時ごろドアの下から差し込まれた朝刊を炬燵の上いっぱいに拡げ、まだ読んでいた。けれども、そろそろ眠ろうと思い始めていた。岡はノックし、僕が立っていってあけてやると、「起きてたの? 朝早く迷惑じゃない?」「いや、大歓迎だ。入れよ」 僕は手早く畳の上を片付け、...

  • 失われた夜のために (参考系譜)

    ...

  • 失われた夜のために (その5)

          五 すべて、うまくいっている。僕は毎日働き、働いて食いぶちを、つまり自由を稼いで、それを残らず系図書きに注ぎこんでいる。 帝国紀元八十年のこの時点においての眼目は、第九代皇帝康武の権力をいかに守り抜いていくかだ。彼は敗れてはならない。それは美学上の問題だ。父、昌泰帝から八年前に受け継いだばかりの彼の地位が、早くも彼の従兄弟たちに移っていくようでは、昌泰帝の二十年間の治世があまりにうつろ...

  • 失われた夜のために (その6)

          六 そしてまた、別の日曜日の午後。 いつのまにか、うとうとしていたらしい。ドアが控えめに叩かれている。炬燵に座ったまま、僕は返事した。ノックは止まったが、誰も入ってくる気配がない。どうぞ、と僕はいった。遠慮がちに開かれたドアから若い女が顔をのぞかせた。「お勉強中ですか」明るい声で女がいった。「いいえ。お休み中です」「少しお話していいですか」と女は同じ調子で続ける。 どんな用事かときくと...

  • 失われた夜のために (その7)

          七 桜が咲き始めた。今朝、路面電車から通りすがりに、寺の土塀の上に顔を出した花びらを見た。人々は浮足立ち、花見の準備を始めているだろう。僕は通りすがりに見るだけだ。それもまたいいかもしれない。わざわざ用意して見に行く、目的化された花は、どこか生活から切れている。生活の中で通りすがりに見る花は、かえって生活の中の一風景として心に残るかもしれない。負け惜しみか? 一瞬で通り過ぎ、いまや見飽...

  • 失われた夜のために (その8)

          八 僕はとり残され、寸時、ぼんやりした。だが、何を考えてみようとする間もなかった。誰かがテーブルの向う側に立ったからだ。僕は眼を上げた。「やはり、あんただったな」 小平だった。男としてはくっきりしすぎる顔が、二年前と同じようにそこに立っていた。僕は苦笑した。「ここに来るんじゃなかったな」「おれと会いたくなかったてか」 僕は心から笑った。「いや。会えて嬉しいよ」「そうでもなさそうな顔だっ...

  • 失われた夜のために (その9)

          九 結局一週間後に、僕は電話した。その次の日曜日に、花見客でにぎわう河原にかかった橋の上で、僕らは会った。おもちゃのような郊外電車を降りて、人ごみの中を橋の方へ歩いていくと、圭子は欄干に寄り添って、人々の頭のあいだで、僕を見ていた。橋が地面より少し高くなっているので、彼女の顔はよく見えた。少しも変っていなかった。僕が近付くまで、彼女は表情を変えずに、ずっと僕を見ていた。人々に押し流され...

  • コスモス 8

     終幕P場      中間幕の手前。男1、刑事。机に向かいあって掛けている。刑事  君の話はとりとめなくて、現実なのか、芝居なのか、夢なのか、いつの話なのかさえ、はっき    りしない。だがわたしの鈍い頭にも、おぼろげに浮かんできたことがいくつかある。要するに    人間てのは、どんな小難しい理屈を並べてみても、結局は似たり寄ったりだ……男1  ぼくは自分が他人と違うなんて思っていない。ただ、ぼくは...

  • コスモス 7

     四幕P場      中間幕の手前。刑事と、男1、机の両側に向かい合って掛けている。刑事  (話の続きを言いかける)そこで、訊くんだがね……男1  (さえぎる)もういいよ。同じことの繰り返しだ。ここには毎日お客が次々とやってきてね、愚    にもつかない話をしていく。おかげで退屈しないよ。いまもひとり、来ている。刑事  (見渡す)どこにお客がいる。男1  (笑う)いるじゃないか、ぼくの目の前にさ。いささか歳...

  • コスモス 6

     三幕Q場      小川家の元従業員用食堂。冬の初め。夜。中央にストーブ。ストーブの両側にやや大きめ      のテーブル。テーブルの上に、ビールと食べ物。(本物である必要はないだろう。コップ、      皿、箸、仮に栓をしたビールの空ビン、栓抜きなどをおいて、場面がきたら、飲み食いの      ふりをするだけでよい)片側に、中野、小川、宮内。反対側に、半井、古田。中野たち三      人は、回...

  • コスモス 5

     三幕P場      中間幕の手前。一幕P場と同じ場所。男1(古田)、舞台中央で仰向けに寝ている。やが      て。いきなり上半身を起こして。男1  逃げなきゃいけない。何もかも、わかってしまう。あの古い、人々から忘れ去られた街の、ど    ぶ川沿いの朽ち果てた長屋の一画が、取り壊された。いまや、まる見えだ。長屋の裏手に、ど    ぶ川にはさまれた、あのせまい場所に、長屋に張り付くようにして建て...

  • コスモス 4

     二幕P場      中間幕の手前。一幕P場と同じ場所。舞台中央で、樹になったままの、男1(古田)。      男2(中野)、登場。樹の手前で立ちどまり、しげしげと樹を見やり、正面に来て、また見      つめ、反対側に移動して、また見る。男2  いったいぜんたい、どういう意味なんだ? 樹は樹。人間は人間だ。人間がそう簡単に樹になっ    てたまるもんか。これは芝居なのか? 芝居としても、リアリティと...

  • コスモス 3

     一幕Q場      稽古場。二年前。ところどころに作業台と椅子。台の上にはミシン。倒産した縫製工場で      ある。全体に雑然とした感じ。      岡崎、中野、宮内、小川、古田。序幕やP場とは違う服装であることが望ましい。特に小      川はここで若がえる必要がある。      岡崎と中野が袖に近い作業台をはさんで向かいあって腰かけている。あとの三人は、遠巻      きに二人の議論を聞く...

  • コスモス 2

     一幕P場                    幕が上がるが、中間幕は閉じたまま。せまい場所だが、袖に近く粗末な机と、それをはさん      で二脚のやはり粗末な椅子を置く必要がある。なお、できたら、中間幕に格子のついた窓。      机よりに、舞台中央を向いて、たたずむ男(古田)。やがて。男1  (つぶやく)幕が上がる……たたずむ男……沈黙。      沈黙。ややあって、再びつぶやく。男1  幕が上...

  • コスモス 1

     コスモス時   現代場所  コンビナートのある、地方都市季節  秋から冬にかけて    序幕、終幕は二年後の秋登場人物 Q場    古田 (ふるた)  中野 (なかの)  半井章子(なからいしょうこ)  岡崎 進(おかざきすすむ)  宮内真理(みやうちまり)  小川  (おがわ)  峰小枝子(みねさえこ)   (以上いずれも、二十代) P場  男1(古田)  女1(半井)  男2(中野)  ...

  • 朝 3

     「別所、じいさんが呼んでるぜ」と杉野がいった。別所はホルダーから、いまはさんだばかりのさらの溶接棒を外して立上った。溶接用の長皮手、その下の軍手、眼鏡、マスク、耳栓、前掛け、これだけのものを順々に外していくにはそこそこの手間がかかる。まったく戦争のような完全武装だ。保護具をつけ外しするたびに別所は、甲羅に入った亀を、あるいは中世のあの鎧冑にすっぽり収まった滑稽な騎士を思い出した。 詰所に入ってい...

  • 朝 2

     軽四で寮へ帰ってくると、水曜日であることに気づいて作業着を洗濯した。一週間に二度、水曜と土曜に洗うことにしていたのだ。そのあいだに部屋で新聞を読んだ。新聞を読みはじめると面白くてきりがないが、その日は前の日曜日に買ってきた新しい推理小説の中の一冊を読みはじめる予定にしていたので、新聞の方は早めに切り上げようと思い、できるだけとばして読んだ。ときどき立っていって、洗濯機の水を替えたりした。それが終...

  • 朝 1

     朝方、ちょっともめた。司会が集会の終りを宣言して壇から降りかけていたが、人々は整然とした幾筋もの列を作ったまま、すぐには動きださないでいた。いちばんうしろにいた別所は、ふりむいて歩きはじめたとき、二本線が自分を見ているのに気がついた。別所がいぶかしげな視線を返しながらすれちがおうとすると、二本線はつと伸ばした手を別所の肩においた。別所よりもやや背が高かった。黒い線を二本ひいたクリーム色のヘルメッ...

  • 盗 難 2

     十六時四十五分で定時は終わる。まにあうように仕事を終わらせて詰所に戻る。何人かは残業しているが、出作業組はみな帰った。暑いさかりに高熱作業をしては、あとが続かない。それにいまから段取りしても中途半端なだけだ。結局しんどい仕事をするものほど、給料が安いことになってしまう。 津川はこれからまだ作業日報をまとめたり、安全関係の書類をまとめるので時間を食う。五時をだいぶまわってハウス内にある事務室に戻っ...

  • 盗 難 1

     六月も半ばを過ぎたが、雨は降らず、蒸し暑い日が続いていた。午後からは脱ガスの地金切りなので、津川は自動販売機で四人分のポカリスェットを用意した。班長というのは、安月給で出費ばかり多い職責だ。それでも部下を熱中症で倒れさせるわけにはいかない。なりたくてなった班長ではないが、順番だから仕方がない。まあ、作業長にならなかっただけよかったんだろう。作業長の御厨は胃癌になって胃を全摘出してしまった。やっと...

  • ノロ鍋始末記 第六章

     火曜日の朝、いつものミーティングが終わりかけていた。直木は立ち上がった。「言いたいことがあります」声を張り上げた。 みなの目がいっせいに直木に注目した。尻を浮かしかけていた何人かがもとどおり坐った。大江と安部も直木を見た。「ここに池山課長名の命令書のコピーがあります」直木は書類を掲げた。「これによると、先週の月曜日の時点で、渋井さんはノロ鍋を引き払い、このハウスを職場とすることとなっています。し...

  • ノロ鍋始末記 第五章

     最初の土日は休み、次の週から毎日二時間残業して、柴田さんはだいぶ切り進み、直木も手伝ったり、見よう見まねで切ったり、鍋に入って溶接したりした。その間渋井は朝のミーティングに顔を出すようにはなったが、大江から書類整理の仕事をもらうと、相変わらず詰所にやってきて閉じこもる。月曜日の期限はすぎ、一週間経ったが、渋井は移動する様子がない。最初の一基の納期がせまったので、直木たちは土日も出てきて定時まで働...

  • ノロ鍋始末記 第四章

     翌朝のミーティングで大江は別にこの件には触れずに、いつもどおり、災害速報や、安全に関する若干の注意事項を述べただけで終わった。こんなミーティングがなんの役に立つんだろうと直木は思うが、氷川班や、ほかの班もいて、それぞれ仕事の内容が違うので、抽象的なミーティングにならざるをえないのだろう。出がけに安部係長が、よろしく頼むぞ、と柴田さんと直木にむかっていった。大江が現場までついて来た。せまい詰所に十...

  • ノロ鍋始末記 第三章

     道みち、直木は例の件か、ときいた。そうだ、と柴田さんは答えた。「ノロ鍋って、なんですか」「ノロを受ける鍋や」「それがよくわからない」「転炉でも造塊でも連鋳でも、湯の出初めと最後は必ずノロちゅう不純物が出よる。これを受ける鍋や。おとといコキ鍋に落ちた湯を切ったやろ。あれは転炉のノロを受けて鉄道が引っぱっていく。造塊と連鋳と、それに原料はノロ鍋に受けて、物流が専用の運搬車で運ぶのや」「どんな鍋ですか...

  • ノロ鍋始末記 第二章

     朝が来た。 直木は意外と元気な自分を感じたが、柴田さんはさすがにくたびれたらしく、口数が減って、ぼんやりした眼をしている。田所は最初から少しも変わっていない。二十四時間働いた直木たちと違って、もともと夜勤勤務だ。彼らはずっと昼夜十二時間の二交代制で働いている。 ほとんど、田所と柴田さんが交代で切ったが、直木もときどき切った。はたで見るのと違って、自分でやってみると、まずその熱さに尻込みしたくなる...

  • ノロ鍋始末記 第一章

    「なお、何しとっかあ」 柴田さんがどなっている。直木は酸素ホースを引っぱっていた。直径五センチ、太く肉厚の酸素ホースは、コンクリートの地面にまるで吸い付いたように黒々と横たわり、持ち上げるだけでも重く、引っぱっても動かない。「なおォ、直木ィ、届かんでよォ、引っぱれやァ」「引っぱってまあす。ちょっと待ってくださあい」 直木は、いったんホースを投げ捨て、尻ポケットから懐中電灯を取り出して、ホースを伝っ...

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